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第21回1000字小説バトル
Entry2

遠い花火

作者 : 叙朱 [ジュシュ]
Website : 叙朱短編文庫
文字数 : 910
 月末。
 だからといって特別の期待はしない。
 無味乾燥な毎日は、それが当たり前になるまでに少し時間がかか
ったけれども、今ではもう慣れっこだ。
 そういえば、初めてこの町に来た頃は、気持ちがうきうきしてい
た。アパートを決めて、駅前のスナックでオールドパーをシングル
で飲んで、駅留めにしていた荷物を取りに行って、帰り道はもうす
っかり夜だった。遠くの空に花火がはじけていた。それがまるで自
分を歓迎してくれているような気がして、妙に嬉しくなったものだ
った。
 あれから1ヶ月。満員バスに揺られて通う新しい会社は期待はず
れだった。新入りにはとても冷たい同僚たち。そして色眼鏡の上司。
それらはまだいい。
 一番驚いたのは、あれほど魅力的に見えた仕事が実は孤独で味気
ないものだと知らされたことだった。
 1週間のオリエンテーションのあとで回された仕事は小さな町工
場の清算だった。うまくこなしたと思うが、激高した工場主に裏切
り者呼ばわりされて、気が滅入った。
 次はやはり大きな焦げ付きを抱えた中堅の建築設計事務所だった。
感情を殺して事務的に処理した。鬼と言われた。こっちだって叫び
返したかった。貸した金を返せないなんて、そっちこそ犬畜生じゃ
ないか……。

 月末。
 もう気持ちが揺れている。こんな毎日では自分がだめになってし
まうのではないか。不安が突き上げる。
 今度まわってきたのは小さな出版社だった。ついさっきまで、負
債リストをながめていた。丹念に。すべて期限切れ、おまけに担保
割れしていた。未収金も焦げ付き、返本在庫が倉庫にあふれている。
とても助けられそうにもない。溜息が出た。
 ふと見上げると、窓の向こうはもう夜だった。
「あ、花火」
 すぐとなりから、誰かが声をあげる。遠くの空に赤い花火があが
ったのだ。
 手を休め、事務所中の同僚がその花火に目をやった気配がした。
「あの花火が散る前に、火の粉のひとつくらいこの手ですくいとめ
たいよな」
 誰かのつぶやきが聞こえた。
 すぐに誰かが揶揄するかと思った。ところが。
 書類のこすれ音もしない。異様なほどに、事務所は静まりかえっ
たままだった。

 遠くで花火がもうひとつ。






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