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第21回1000字小説バトル
Entry25

贋・・・爺

作者 : 鮭二
Website : http://members.aol.com/Shakeji/papyrus.htm
文字数 : 1000
 最近の楽しみは水曜日のゆで卵。朝4時に起きてこっそりと寝室
を抜け出し、台所に立つ。毎週火曜日は近所のスーパーで卵の特売
をやっているから、冷蔵庫には妻が買ってきた新鮮な卵が並んでい
るというわけ。大鍋に水を張り、火加減に注意しながらゆでる。半
熟はいけない。じっくりと固くなるまでゆでる。
 父がまだ元気で私たちと一緒に暮らしていた頃、生卵を自分の額
で割り、どろどろと顔に擦り付けながら近所を走り回るのを何より
の楽しみとしていた。その喜ぶ様子をいつも2階の窓から双眼鏡で
観察していた妻は、今でも毎朝欠かさず父の遺影に生卵をぶつけて
供養としている。そんな魂の交感を思いながら、たっぷりとゆでた
20個の卵を冷蔵庫に並べ終わると、寝室からラジオ体操のメロデ
ィーが流れてくる。こちらは朝の散歩に出掛ける。
 朝刊二紙を見知らぬ家のポストから失敬した後、少し遠回りして
「中州」の長男の家に寄り、一部を分けてやる。住宅ローンの支払
いのため新聞も取れず、毎朝駅のゴミ箱を漁っている長男は喜んだ。
 そこへ今年5歳になる孫娘のクゥーちゃんが寝ぼけ眼で近付いて
来て、
「あのね、うんとね、パパとママ、ゆうべこんなことしてたんだよ」
 と云って私の股間をさすった。クイッククイックスロースローと
いった風のいい手つきをしている。3年前に脳を患って以来さまざ
まな部位が敏感になっているこちらはすぐにエレクトしてしまった。
クゥーちゃんはいつも無口であまり感情を表に出さない子供だが、
たまにこういうことをして私たちを喜ばせてくれる。とても気持ち
のいい幼稚園児である。
 橋の途中で、いつも手の込んだ料理を届けて下さる崔さんに会っ
た。先日頂いたキムチのお礼を申し上げると、
「ちょっと辛すぎましたね」
 と云って謙遜される。常々血圧を気にしている身としてはおいそ
れと口にできる代物ではなかったが、近所の犬にやったら嬉しそう
に食べていた。
「犬の口にはちょうど良かったようです」と申し上げると、崔さん
は年甲斐もなく地団太を踏んだ。
 散歩から戻り、居間のソファーでビールを飲んでいると、妻が来
て父の遺影をしみじみと見上げた。案の定写真立てのガラスは何ヶ
所か割れていて、卵の殻がこびり付いている。割れた部分はセロテ
ープでうまく修復してあった。
「お父さん、ずいぶんしわが増えたなあ」と云うと、
「ほんと、さいきん、めっきり」
 と云って妻はまぶしそうに目を細めた。






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