第21回1000字小説バトル
Entry6
する事をし終わってさて寝ようという段になって、彼女は 「どうして響子じゃないの?」 と彼女の親友の名前を口にした。 「どうしてって何さ」 「だから……なんで響子じゃなくてあたしなの」 響子──結城響子は彼女の親友であり、常に彼女と行動を共にして いた。そんなだから、彼女は俺が響子目当てで自分と一緒にいるの ではないかと勘繰っていたらしい。 「俺、別にあいつには興味ないんだ」 「じゃあなんであたしなの」 一度思いこむと、なかなか譲らない。彼女のそんなところが俺にと っては随分と可愛いのだけれど、そんな事を言ったところで彼女が 納得するとは思えなかった。 「そりゃ、まあ、いろいろさ」 俺がそう言うと、彼女は不満そうに 「いろいろって何よ」 と、こちらをにらむ。こうなると何を言っても始まらないのだが、 俺はふと思いついて 「脚がない女とそうそう寝られるもんじゃないだろ」 と言ってみた。案の定、彼女はうつむき 「ひどい」 と漏らす。 彼女は二年ほど前、事故で両脚を失っており、現在は車椅子で生 活している。それが彼女の苦悩の一端である事は俺には分かってい たけれど、あえて。そう、あえて言ってやった。 「それって差別だわ」 彼女は悲しげにそう呟いた。泣いているのかもしれなかった。 「だったら」 俺は横たわっていた体を起こし、彼女を見下ろした。泣いているの を悟られるのが嫌なのか、彼女はぷいと顔を背ける。俺は続けた。 「お前はいい女だけど脚がないのがちょっとなあって、そう言って 欲しいか?」 どうでもいい事だった。少なくとも俺にとって、彼女の脚がなか ろうが三本だろうがそんな事はどうでも良かった。 「俺は」 そう、俺は── 「お前が好きなんだ。お前の全部が好きなんだ。一重まぶたなとこ ろも、少し癖毛の髪も、歯並びが少し悪いのも鼻をひくひくさせる 癖も全部好きだ。もちろん──」 俺は彼女の下腹部に触れた。 「脚がないのも」 言い終えて、俺は側にあった煙草の箱から一本を取り出し、火を つけた。彼女は何も言わないまま、俺とは反対方向を向いたままだ った。 やがて、俺が煙草を一本吸い終わった頃、彼女は少し鼻声で、 「馬鹿」 とだけ口にした。 それから俺達は泥のように眠った。疲れていたのだろうと思う。 翌朝、彼女は寝起きですっきりしない俺の顔を見て、 「おはよう」 と──それまで見た中で一番の笑顔で──そう、挨拶してくれた。
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