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第21回1000字小説バトル
Entry9

紅い唇

作者 : さとう啓介
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文字数 : 1000
 白く光る雲が遠退いてゆく、冷たい風が僕を突っつく。
首をすくめ地下歩道の階段を駆け降りると、幾分暖かく感じられた。
振り返って階段上の空を見上げると、今にもちらほらしてきそうだ
った。

 突然、僕の背後から声が聞こえた。振り返ると、携帯電話程の人
が寒そうに手足を擦りながら立っている。
「ウッ!」
低い呻きを上げ、目を疑った。よく見ると隣の加藤の爺ちゃんだ。
(裸!)
「マー君じゃったの、火を持っとらんか?」
嗚咽しそうになりながら、タバコを取り出した。
「おお!火を付けてくれ」
僕はタバコに火を付け、深く吸い込んでから差し出した。
爺ちゃんは両手で抱締めながら、ほのぼのとした笑顔を返してきた。

 僕は気を取り戻し
「ど、どうしたの?」
「それがな、せがれの嫁に手を付けての……麻子も満更じゃ無かっ
たんじゃろ、爺ちゃん、い・いい〜、と喜んで、そこまでは良かっ
たんじゃが……私の玩具になって!言うてワシを小さくしたんじゃ」
僕はあまりの驚きに、鼻水が垂れるのも気付かず声が出なかった。

「魔女だったんじゃ!麻子は。今日も、爺ちゃん楽しんでね、言う
てパンティに入れられたんじゃよ」

麻子さん……あの色っぽい姿……Hな唇……!
僕のスケベな想像は、余すことなく表情に出た。
「おいマー君、大丈夫か?」
フッと我に返り、ヨダレを拭った。
「何でこんな所に?」
「買い物じゃ。ワシゃパンティの中で疲れて、さっき落っこちたん
じゃ」
「えっ!じゃあここを通る?!」
「多分な」

 僕の心は弾んでいた。その時、階段からヒールの音が響いた。
「あら、マー君こんにちは!」
僕はとっさに爺ちゃんをポケットに押し込んだ。
「あち!熱ち!」
タバコを忘れていた。慌ててタバコだけ取り出し、またポケットに
手を突っ込んで、爺ちゃんが出ない様に押さえた。
「こ・こんにちは。」

 揺れる胸元が通りすぎ、黒いスカートからは素脚が色っぽく擦れ
ている。
「そんなの吸って悪い子」
振り向いた紅い唇が悩ましげに動いたかと思うと、そのまま反対側
の階段を上って行った。

 ボーッとした頭は働きだすまで少々時間がかかった。
「そうだ!」
僕は地下歩道を走り出た。出た瞬間、少し積もった雪に滑って思いっ
きり転んだ。
「うぎゃ!!」(やっちゃった!)
ポケットを覗くと、爺ちゃんが二つ折りにペトッとなっていた。

 黒いスカートが揺れ、白い手が僕の手を取り
「今度は、マー君が私のお友達になってね」

 紅い艶やかな唇が囁いた。






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