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第22回1000字小説バトル
Entry17

あべこべ

作者 : 耕田みずき
Website :
文字数 : 857
「加津美、おやつよ」
 広美はシュークリームとジュースを乗せたトレイを片手に、ひと
り息子の部屋をノックした。だが、確かにいるはずの息子からは何 
の応答もない。
「加津美、いないの? 入るわよ」
 トイレにでも行ったのかと思いつつ、広美は我が子の部屋のドア
を開けた。
 でも、そこで広美が見たのは変わり果てた息子の姿だった。鴨居
で首を吊った加津美がぶらんこにでも乗っているかのように揺れて
いた。
「カズミ! な、なんてことを!」
 広美の絶叫が家の中に響き渡った。

 広美と夫の千尋はリビングで黙ったまま膝を突き合わせていた。
夫婦はひとり息子の葬儀を終えたばかりだった。
 二人は共に十歳ほど老け込んだように憔悴しきっていた。
 遺書が残されていたので、加津美の死は自殺と断定された。遺書
には“お父さん、お母さん、ごめんなさい。先に天国へいきます”
と書かれていた。
「短すぎるわよね。まだ小学六年生だったのに」
 涙声で広美が呟いた。
「ああ。せっかく授かった子だったのに。もうちょっと突っ込んで
話を聞いてあげれば良かったんだろうか」
 千尋も洟をすすった。
 学校側はいじめの事実はなかったと言った。ただ、たまに“女っ
ぽい”とからかわれていたらしい。
 広美と千尋は息子の死後、彼の日記帳のような小さなノートを見
つけた。それには“ボクは男なんてイヤだ。女に生まれたかった”
というような告白が言葉を変えながら書き連ねられていた。
「加津美ったらバカよね。ひょっとしたらと思っていたけれど……。
私たちには素直に言ってくれれば良かったのにね」
「そうだよな。俺たちだって、元々は性別が逆だったんだから。俺
が女の身体の時に加津美を産んで……それから俺たちはお互い手術
を受けたのにな。だから、加津美だって女として生きたって良かっ
たのに。何も悩むことはなかったのに。まだまだ世間は身体の性と
内面の性を一致させたがるんだな……」
 千尋の呟きに耐えきれず広美は声を上げて泣き出した。千尋は大
柄な広美の身体を抱きしめる。二人はいつまでも互いの体温を感じ
ながら泣き続けた。






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