第22回1000字小説バトル
Entry18
独身男。33歳。煙草はセブンスターをふた箱。グラフィックデ ザイナー。仕事漬けの毎日。徹夜。目薬とブラックコーヒー。平均 睡眠時間は4時間そこそこ。戦友は、マイノリティーになり果てた Macちゃん。 なぜここまでして仕事をするのか……。あまりに余裕が無さ過ぎ る。転職しようか。いっそ肉体労働。今さら?全身から筋肉と名の つくものが溶け落ちているようなこの身体で?ああ、だめだ。煙草 で肺活量無いもんな、俺。 いつもの定食屋へ、いつもの道のり。いつも同じネガティブ思考。 住居兼仕事場から歩いて8分のところにあるその店は、夜10時か ら朝8時まで営業をしている。酒類を一切置いていない。近所は首 都高と国道と雑居ビルばかり。つまり、今頃の時間帯の顧客は、俺 の様な連中かタクシー運転手といったところ。みんな疲れて脂の浮 いた顔をして、青白い蛍光灯の下ではまるで病人仕様。重力に逆ら えない表情。俺もあんな面をしてるのか、とお互い見て見ぬフリし ながらのいつもの観察。いつもの確認。 俺はどうしてこの店に来てしまうのだろう。かき玉汁で疲れた胃 が温まっていくのを感じながら、ふと思う。本当はわかっている。 この定食屋のおばちゃんなのだということを。 歳の頃は52、3。お運びとレジ担当という、何の変哲もない普通 のおばちゃんだ。 俺は、そんな彼女の顔が大好きなのだ。ファン、といってもいい かもしれない。 美人でもないし、化粧気もない。だが、その表情がいい。疲れ切 った男達を見続けてウン十年。同情も憐れみも超越してしまった元 気一杯の笑顔。真夜中でも夜明けでも、いつも変わらず同じ笑顔。 いったいなぜ、あんな顔ができるのだろう。おばちゃんは何者な のだ。店の身内の者って雰囲気でもないし。いつからここで働いて いるのだろう。勤務時間からいって既婚者のはずはない。バツイチ か?子供はいるのか? いや、そんなことはどうでもいいのだ。いろいろあって今がある。 この店に来るのはそんな野郎ばかり。同じ社会に属している者たち。 あくまでもけだるい吹きだまりのような店だけど、おばちゃんの笑 顔が、俺たちは決してアウトローではないと言っている。 安心しきった顔つきで黙々と食事をする男ども。 夜明けのメシ。おばちゃんの笑顔。自己確認。これらは、俺の生 活の必需品3点セット。 午前5時55分。ぼんやりした脳みそでの思考ナリ。
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