インディーズバトルマガジン QBOOKS

第22回1000字小説バトル
Entry19

作者 : 太郎丸
Website : 太郎丸の落書き
文字数 : 1000
 ヒトゲノムの解明も進み、不老不死を求めていた人類の研究成果
は、一般の人達にも影響を与えていった。

「被告人を有罪と認めます」
 判決から刑の執行までは、たった2週間だった。その後1週間は
入院させられ、裕一が医療刑務所から出所した時には、支給された
青い服を着ていた。入院中に両親が自殺した事を聞かされた時にも
涙は出なかった。
 裕一は変わった。張りのあった皮膚はたるみ、髪の生え際にはシ
ミが出来ていたし膝の関節も痛み、視力も落ちた。
 両親よりも年老いた裕一には帰る家も無かった。裁判費用で何も
かも失った両親には、裕一に何も残せなかった。

「こちらにどうぞ」
 出所する時に裕一が紹介された男が相談にのってくれた。
「僕はどうすればいいの?」
 戸惑っていた裕一が切り出すと、男は答えた。
「まず、自分の事を『僕』というのは止めましょう。ちょっと不自
然ですから…。貴方はもう70なんですからね」
 加齢刑を受けた裕一は、まだ高校に入ったばかりだった。

 裕一は生きていく為に、マンションの管理人として住込みで雑用
をこなし始めた。しかし裕一は、そのままずっと管理人だけとして
一人で一生を終えていくのが悲しかった。
 裕一は随分変わってしまっていた。あんなに好きだったゲームに
も興味が無くなったし、女子高生どころか二十歳代の女性の行動を
見ても、微笑ましさしか感じなかった。おばさんと思えていた女性
でさえ、可愛く感じてしまう。
 恋愛経験の無い裕一は、このまま恋もしないで年老いていくとい
う事に悲しさを感じはしたが、SEXに対する欲望は湧かなかった。
 ついこの間まではエッチな本を部屋に隠していたのに、興味を無
くしてしまったこと自体が悲しかった。ただただ寂しかった。
 今まで一人の生活は経験が無かったし、炊事や洗濯、掃除は思っ
たよりも重労働だった。
 そういうわけではなかったが、朝の散歩でよく見かける品の良い
おばあさんとは気が合って、公園のベンチで良く話しをした。
 彼女も一人だという事が原因かも知れない。何故か気があって、
ベンチから立ちあがるときに差し出す手の温もりも心に染みた。
 これがひょっとしたら好きだという事なのかも知れない。いつも
一緒にいたいと思った。生まれて始めての感情だった。何故か目頭
が熱くなった。
「あら、どうしたの?」
 彼女は心配してくれたが、裕一には答えられなかった。

(やはり僕は少し年を取ったのかも知れない)






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。