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第22回1000字小説バトル
Entry20

ツグミと椋鳥とひよ鳥

作者 : 海坂他人
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文字数 : 995
 去年の秋に、農家から買い込んでおいた段ボール箱五箱分の林檎
は、冬が終わる頃になるとさすがに味が落ちて来て、中には割って
みると茶色に色が変わってしまったものもある。
 人間に食べられなくなったのを、丸のまま庭の真ん中に投げ出し
ておくと、鳥が来て片付けてくれる。家の周りには雀・カラス・鳶
など色々な鳥が居るが、林檎を食うのはおおむね三種類に限られて
いる。
 私は久しぶりに風邪を引き、勤めを休んだので、鳥たちの食事を
つぶさに観察する事が出来た。
 食堂から庭を眺めていると、一番にやって来るのは橙いろの羽を
もったツグミである。ピョンピョンピョンと地べたの上を跳ねては
時々立ち止まり、まるで林檎など眼中にありませんという様子であ
たりを窺いながら近づいて来る。
 そしてついにたどり着くと、白く見える舌をひらめかしながら林
檎の身をつつき出す。
 時々、首すじのあたりの羽毛がむうっと膨らむ。人間も美味いも
のを食うと感動してぞくぞくとすることがあるが、あの鳥も丁度そ
んな気分だろう。
 ところが、そこへ黄色いくちばしの椋鳥が、やはり地面をのその
そと歩いて現れると、ツグミの幸せは一瞬で奪い去られてしまう。
椋鳥は図々しい鳥である。肩で風切るように威圧的な態度で真っ直
ぐに林檎に向って歩いて来ると、気の弱いツグミは脇へどかされて
了う。
(もっと、強く出なくちゃ駄目だ)
 私は職場でも、どこでも、つい遠慮がちで気圧されやすい自分の
性格を重ねて、ツグミを応援したく思うのだった。
 硝子戸をそうっと開けると、図々しいが用心深い椋鳥はすぐに早
足で退却し、少し鈍いツグミが代って食いに来る。暫くするとまた
椋鳥が侵攻して来る。開けると逃げる。どうも椋鳥は自分が追われ
て居ること、ツグミは自分が保護されている事が判っているらしい。
 しつこく「阿呆の鳥追い」を続けているうちに、満腹になったら
しい鳥どもは一羽も居なくなり、私はその夕方、八度に熱が上がっ
てついに倒れて了った。布団が重く巨大に覆い被さって来る幻覚の
中で、まん丸で表情の無い、鳥たちの目玉がしきりと浮かんだ。
 ツグミと椋鳥の他に、ひよ鳥もよく来る。此奴はまた、一コの林
檎をみな食べ尽すような勢いで詰め込んで、体型さえ変わったよう
に見えるのに何時までも止めない。心配になって双眼鏡で脅かして
やった。鳥はレンズの反射に敏感で、硝子戸の中からでも双眼鏡を
向けると、すぐ逃げる。






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