第22回1000字小説バトル
Entry22
新宿を歩いていた時、僕はため息を売る露店を見つけた。ちょっ と興味があったので、ため息を店主に見せてもらうことにした。そ こには、女子高生、女子大生、OL、主婦といったものから、新橋 の酔っ払い、上場企業のオーナー社長まで様々なため息があった。 僕はその中にあった、何の不満も何の悩みもない完璧な人のため 息というものにひかれる何かを感じた。満たされた人がため息をす るのだろうか? という疑問もあったが、とにかく欲しくなってし まった。 「これは幾らくらいするのですか?」 「これかい? これは品のいい物だよ。きちんとした店で買った ら確実に二ケタはするからね。あんたいい目してるね」 ため息の専門店なんて今まで見たことはなかったし、二ケタって いうのが10円なのか10万円なのか10億円なのか想像もつかなかった が、店主によると、きちんと正規のお店があって、正規のルートで 売られているということだった。 「で、幾らなんですか?」 「そうねぇ〜これは俺の思い入れもあって、ちょっと値段を付けに くいんだよ。お金っていうのもなんだから、あんたの性欲と交換で どうだい?」 性欲? 僕はちょっとあっけにとられたが性欲なんて邪魔になる 場面は多いが、なくてもどうにでもなるようなものだと思ったので、 交換をすることにした。 「はい。これが『何の不満も何の悩みもない完璧な人のため息』だ よ」 そういって果物を入れるような茶色の紙袋に入れてくれた。かわ りに僕は性欲をおいてきた。僕の性欲にどんな価値があるのかは分 からなかったが、ため息の正規の店があるように、世界には僕の知 らないことがたくさんあるのだろう。 僕は足早に家に戻り、紙袋をそっと開けてみた。 そこには、『何の不満も何の悩みもない完璧な人のため息』が入 っていた。僕はそれを30分眺め、それを飲み込むことによって自分 がどうなってしまうのか分からないという不安もあったが、我慢で きなくなり飲み込むことにした。 飲み込むとそれは無味無臭だった。『何の不満も何の悩みもない 完璧な人のため息』には味なんてあるはずがない。そこには何の悩 みもなにもないのだから…… それから一週間が経つ、何か変化があったかというと何の変化も ない。ため息を飲み込んだことでも、性欲を失ったことでも何も変 わっていない。 そして、僕は悔しいので次の日曜日にもういちど、あの店に行き 今度は不満だらけのため息を手に入れてみようと思い始めている… …
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