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第22回1000字小説バトル
Entry23

通りすがりの伝説

作者 : map
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文字数 : 869
  1999年7月31日、PM3:53
  S市中心部S駅前、快晴
 街は賑やかだった。
 街中は学校帰りの高校生や近くのオフィス街の会社員、電車に乗
ってこの街にやってきた観光者などが行き交っていた。
 空は心が洗われるような深い青だった。まだお昼時という事もあ
って夏の暑さがきつく、街路樹は青々とその葉を繁らせている。
近くのベンチでは母親が赤ん坊をあやしていた。腕の中の赤ん坊
は気持ちよさそうに眠っている。
 その時、街の上空では黒い渦巻きが発生していた。
 コォォォォーー
 中から聞こえてくる低くおぞましい声。
 その声に誰も気がつく者はいない。
 街は賑やかだった。
 人々は気がついていない。今、この瞬間に強大で凶賊な悪の大魔
王が約6500万年の眠りから目覚めようとしている事を。
 目覚めれば、その時代に栄華を極めていた恐竜が絶滅したのと同
じように、人類は滅んでしまうだろう。
 黒い渦の一番近くにあったビルの屋上のドアから、制服を着た高
校生らしき男女2人が走りながら現れた。
「あれよ!」
 先に出てきた女が男に向かって言った。男も追いついて渦を確認
する。
「そうか……ついに決着をつける時が来たようだな」
 二人はそう言って肯きあう。
「僕たちは大魔王を倒すためにここまでやってきたんだ。人間をお
前の好きなようにはさせない!」
 男は渦に向かって指差し、見えない相手に言った。
 その後、男は女の方を振り向くと、優しく手を差し出した。
「……行こうか」
「……ええ」
 女は少しはにかんだ様子でその手を握り締める。
 二人は少しの間、そのままの状態で動かなかったが、再び動き出
すと、そろって渦の方へと顔を上げた。
「行くぞ!」
 男が言うと、二人は一緒に渦の中に飛び込んだ。
 渦は二人を飲み込むと、だんだん小さくなって、ついには消えて
しまった。後には何も残らなかった。
 近くのデパートの大きなオルゴール時計が、4時を知らせるため
に鳴り出した。中から小さな音楽隊の人形が出てきて、演奏の真似
をする。
 眠っていた赤ん坊がオルゴールの音で起きた。きょとんとした顔
は次第にクシャクシャになり、ついに泣き出した。
 やがて上空で声の無い叫びが上がった。大魔王の断末魔の声だ。
 人類は救われたのだ。
 しかし、誰もその事に気が付く者はいなかった。
 女子高生の笑い声。電車に乗り遅れないように急ぐ会社員。
 赤ん坊の泣き声。デパートの時計のオルゴール。
 街は賑やかだった。






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