第22回1000字小説バトル
Entry8
僕は呼吸を整え、目を瞑る。周りの音などは無いにも等しくなる。 僕に残されるものは暗闇。暗闇の中に何かを見つけようとする。呼 吸がある。空気。その二つだけが残る。他は全て無くしてしまう事 ができるのだ。光も無くなってしまうし、想い出も自分が頼ってい たものさえ無くなってしまう。そこには暗闇と空気だけ。 しばらくして、閉じていた目を開いた。そこは中庭の芝生の上だっ た。日は高かったが、陽気は僕をいきなり、現実につれていく事は 無かった。 となりには彼女が寝そべっている。彼女は呼吸と暗闇には負けてい た。 彼女はもう21になるにもかかわらず、幼い表情に小さな体を持っ ていた。双子は体が弱いと聞いた事があったが、彼女も例外ではな かった。僕は、暖かくなってきてはいるが、もしも、彼女が風邪を ひいてしまってはと思い、眠ってはいないだろう彼女を起こして、 場所をかえることにした。 彼女は僕の事を何でも知っていた。僕が経験したことや考えること を話さずとも知っていた。僕が長野の田舎で暮らしていたことがあ るというのも、僕をみるだけでその風景が解るという。僕は敢えて その風景を思い返そうともしなかったのに。 始めは彼女を普通の女と見ていたけれども、過ごしていくうちにか けがえがなくなってしまった。彼女はいつも何を考えていて、何を 見ているのだろう。彼女の目を見ても、僕だけが映っている事など 一度もない。きっと、空や大地の色が混じっていた。僕はそれを寂 しく思う。 僕は彼女が僕だけを見ていてくれるようにと面白いこともたくさん やった。道頓堀の道すがらで腕相撲もしたし、グリコにも登った。 彼女は笑っているだけで、そこには大阪の小さな空しか映っていな かった。 時間はそんな僕達にも例外でなかった。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。