第23回1000字小説バトル
Entry1
昨日が終わり今日がはじまった。昨日もなにもなかったし、今日 もたぶんなにもない一日になるに違いない。夜の闇のなかで僕はビ ールを飲み続けていた。空っぽの冷蔵庫と空っぽの家と空っぽの僕 が台所のいつもすわる席に腰をおろし、ただビールを飲み続けてい る。なんの音もしないところで蛍光灯の電気もつけずに僕はなにも ないところでじっとしている。 玄関をたたく音がした。 「あいてるよ」と囁く。すると彼女が入ってきた。 「なにしてるの? 電気もつけずに」 「うん、ちょっと考えごとをしていたんだ。電気をつけたければつ ければいい」 「あなたがそうしたくなければこのままでいいわ」彼女はそういい ながらいつものところへすわった。 「私にもビールをくれる?」 「そんなこと聞かなくていいよ。すきなだけ飲めばいい」 「もうだいぶ酔っているみたいね。私になにかできることがあるな らば手伝うわ」 「いいんだ。これは自分の問題なんだ。君には関係ないよ」 そんなことをいっても僕には答えがみえてくるとは思えなかった 。 「あまり考えすぎないほうがいいわよ。決してあなたが悪いわけじ ゃないわ」 「なぜそんなことが君にはわかるんだい。僕は悪い人間さ。何もし なかったし、何もできなかった。ただ時間だけが過ぎただけだ。君 にはもうしわけないと思っているよ」 「もういいのよ。気にしないで。もう終わったことなの」といって から彼女は微笑んだ。 僕は缶ビールの缶を握りしめた。溢れでてくる涙がとまらなかっ た。 「あなたにも失ったものはあるし、私もそうよ。ただ私のほうが失 ったものがおおかったってだけのことだわ」 「こういうことはものさしではかれることなんかじゃないよ」 「そんなものよ。私は運がわるかっただけ。あなたは何も悪くはな いわ」 彼女は席を立ち僕のほうにきてキスをした。そして着ていたもの を脱いで僕の上にすわった。 「いいのかい」と僕は聞いた。 「いいのよ」と彼女はいって僕の手を彼女の下腹部にみちびいた。 彼女も僕の下腹部に手を入れた。 そして僕の頬に彼女の頬をつけた。化粧のかおりがしてあたたか さがあった。 「ありがとう」と彼女はいった。 「ありがとう」と僕もいった。 そして彼女は帰っていった。窓からはもう朝の光がはいってきて いた。彼女にはもう会うことはないだろう。 あけた缶ビールの数はどうかぞえても僕が飲んだ分しかなかった 。 もう朝だ。僕は玄関をあけ外にでた。
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