インディーズバトルマガジン QBOOKS

第23回1000字小説バトル
Entry1

空っぽの家

作者 : 高橋英樹
Website : http://www.app.ne.jp/~hideki00/
文字数 : 993
 昨日が終わり今日がはじまった。昨日もなにもなかったし、今日
もたぶんなにもない一日になるに違いない。夜の闇のなかで僕はビ
ールを飲み続けていた。空っぽの冷蔵庫と空っぽの家と空っぽの僕
が台所のいつもすわる席に腰をおろし、ただビールを飲み続けてい
る。なんの音もしないところで蛍光灯の電気もつけずに僕はなにも
ないところでじっとしている。
 玄関をたたく音がした。
「あいてるよ」と囁く。すると彼女が入ってきた。
「なにしてるの? 電気もつけずに」
「うん、ちょっと考えごとをしていたんだ。電気をつけたければつ
ければいい」
「あなたがそうしたくなければこのままでいいわ」彼女はそういい
ながらいつものところへすわった。
「私にもビールをくれる?」
「そんなこと聞かなくていいよ。すきなだけ飲めばいい」
「もうだいぶ酔っているみたいね。私になにかできることがあるな
らば手伝うわ」
「いいんだ。これは自分の問題なんだ。君には関係ないよ」
 そんなことをいっても僕には答えがみえてくるとは思えなかった
。
「あまり考えすぎないほうがいいわよ。決してあなたが悪いわけじ
ゃないわ」
「なぜそんなことが君にはわかるんだい。僕は悪い人間さ。何もし
なかったし、何もできなかった。ただ時間だけが過ぎただけだ。君
にはもうしわけないと思っているよ」
「もういいのよ。気にしないで。もう終わったことなの」といって
から彼女は微笑んだ。
 僕は缶ビールの缶を握りしめた。溢れでてくる涙がとまらなかっ
た。
「あなたにも失ったものはあるし、私もそうよ。ただ私のほうが失
ったものがおおかったってだけのことだわ」
「こういうことはものさしではかれることなんかじゃないよ」
「そんなものよ。私は運がわるかっただけ。あなたは何も悪くはな
いわ」
 彼女は席を立ち僕のほうにきてキスをした。そして着ていたもの
を脱いで僕の上にすわった。
「いいのかい」と僕は聞いた。
「いいのよ」と彼女はいって僕の手を彼女の下腹部にみちびいた。
彼女も僕の下腹部に手を入れた。
 そして僕の頬に彼女の頬をつけた。化粧のかおりがしてあたたか
さがあった。
「ありがとう」と彼女はいった。
「ありがとう」と僕もいった。
 そして彼女は帰っていった。窓からはもう朝の光がはいってきて
いた。彼女にはもう会うことはないだろう。
 あけた缶ビールの数はどうかぞえても僕が飲んだ分しかなかった
。
 もう朝だ。僕は玄関をあけ外にでた。






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