インディーズバトルマガジン QBOOKS

第23回1000字小説バトル
Entry10

コピーライター

作者 : RIBOS
Website : http://www.mirai.ne.jp/~mi-osawa/
文字数 : 1000
 俺は、フリーのコピーライターをやっている。一時は一世を風靡
した職業だが、今は昔ほどのステイタスはない。だが、俺は純粋に
これだけで喰っている数少ないライターのひとりだ。俺のコピーは、
それほど評判がいいらしい。
 自慢じゃないが、俺ほど楽にコピーを考え出せるやつはいないだ
ろう。何しろ、俺は頭を使わない。使うものは英和辞典一冊のみ。
これをパラパラとめくって、適当な形容詞を見つけ出し、それをク
ライアントの社名にくっつけるだけなのだ。

 『エキサイティング佐藤生魚店』
 『ゴージャス田中仏壇』
 『ダイナミック鈴木産婦人科』
 『デンジャラス渡辺釣具点』

 これらは、俺が手がけたコピーの一部だ。作り方が作り方だけに、
たいていミスマッチなコピーになるのだが、それがまたいいらしい。
俺の今までの経験では、肯定的な形容詞であれば、まず間違いなく
受け入れられる。逆に否定的なものはダメだ。アンビリーバブル伊
藤弁護士事務所とかでは、さすがにまずいからだ。

「先生!大変です。このあいだのコピーの件で、クライアントがめ
ちゃくちゃ怒っちゃってるんですよ!」
 広告代理店の、俺の担当者が血相を変えて飛び込んできた。
「このあいだって、ああ、俺がバカンスでいない間に契約が取れた
ら、適当に頭につけとけって前もって預けてあったやつか?」
「そうですよ!先生が遊びに行っちゃってすぐ契約が取れたもんだ
から、アレ頭につけて渡したら、『ふざけてる』って先方さん、そ
りゃもうえらい剣幕で…。聞けば、先月、専務さんが女子社員のお
尻を触ったとか触らなかったとかで、訴訟問題にまでなりかけてる
そうじゃないですか。そうと知ってたら、渡すんじゃなかった。い
くらなんでもタイミングが悪すぎましたよ」
 担当者は今にも泣き出しそうである。いつも、俺の担当でよかっ
たと言っている彼とは別人のようだ。
「ちょっと待ってくれよ。コピーと、その訴訟とやらがどう関係あ
るのか、さっぱりわからないじゃないか。ところで俺、どういうの
渡したんだっけ?バカンスの準備で忙しかったものだから、全然覚
えていないんだ」
 担当者の顔を見れば、何かただごとでないことが起きたという事
はわかる。だが、たかがコピーでそれほど深刻な事態が起きるなど
ということがあるのだろうか?
「セクシャルですよ!先生が考えたのは」
「あ、そうだそうだ。思い出した。で、クライアントの名前は?」
「原セメントさんですよ」






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