第23回1000字小説バトル
Entry21
ついにタイムマシンは完成した。 初飛行は「千年後の未来」。これは適当に決めた数字では無い。 というのも長年の友人とタイムマシン完成祝いに一緒に酒を飲ん だ際「人類は滅ぶか」という賭けが持ち上がり、じゃあ賭けとして 何年後が一番面白いのか。一億年後には当然滅んでいるだろうし百 年後は想像できる分面白くない。きっと千年後が一番面白いだろう という話になり、だからこれは、厳密な議論とアルコールの力を借り て出した根拠の有る数字なのだ。 私は「滅ばない」に賭けた。 「人類の英知を甘く見てはいけない」 友人は「滅ぶ」に賭けた。 「人類の愚かさをお前は知らないのさ」 そして初飛行の日はやって来た。 コクピットに座りスイッチを入れると振動が始まった。やがてそ れは暴風の中にいるようなそれに変わり。 凄まじいGが体を襲う。計算ではそれは約20秒で収まるはずだ。 30秒。40秒。 1分を過ぎても振動は収まらない。 警告音が響きだした。 デンジャー。デンジャー。 赤熱する機体。次々と飛び散る計器類の破片。ぐにゃりと、まるで アメ細工のようにコンソールが曲がった。 失敗だ。そう思った。 振動はますます激しくなる。機体はゆがみ、ねじれ。昔テレビで見 た巨大な、高名な画家が描いた気狂いじみた壁画にそっくりだ。 そして失墜感。上も下も無く墜ちていくその中で。 私は確かに見た。 青く広がる空。輝く太陽。銀色に光る街並み。 白く清潔な道。きらびやかな遊園地。 次々と作り出される工業製品。完璧な生産体制の野菜畑。 優しい笑顔のアイドル。全身真っ黒のロックスター。 永遠の平和。永遠の連鎖。永遠の至福。永遠の。永遠の。 永遠の。 その永遠の世界の中に人類はどこにもいなかった。 巨大な工場が、完璧な病院が、百億戸の3LDKが、メリーゴー ラウンドが、愛が、平和が、主のいないまま永遠に虚しく廻り続け、 いや、そもそもどちらが主だったのか。 気が付いた時私は病院のベッドの中にいた。私は助かったのだ。 病院の窓から月が見える。相変わらずの、永遠の餅つき。 その月を見ながら私は、賭けには負けてしまったが千年後には人類 がこの永遠の連鎖から、月の兎だって抜け出せないようなこの永遠の 茶番から逃れられることを思うと、人類の英知もやはり捨てた物では 無いなと自然に笑みがこみ上げてくるのだ。 それにしてもあの人達はどこに行ったのだろう。
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