第23回1000字小説バトル
Entry23
「行っちゃうんだね」 「うん、明々後日には行くよ」 学校からの帰り道。これが最後の帰り道。遠くに何かの終わりを告 げる学校のベルがなる。四月から地元の郵便局の窓口で働く私は違 うとしても都会に出ていってしまう彼はもうそれを二度と聞くこと はないのかもしれない。二人並んで帰るのもきっともう最後なんだ な、なんて考えて寂しくなる。 「御盆と正月くらい戻ってくるのよ」 「うん、戻ってくるよ」 彼が妙にしおらしい。でも分かってる。帰ってきても、もう彼は別 の場所の人。きっとこれは失恋ですらない。高校を卒業し、行って しまう彼、残る私。田舎町では良くある話なのかな?今日を境に二 人が別々の道を歩むだけなんだ。大人びて考えてみるけど、本当は ずっと悔しくて悲しくて恨んだりもした。彼のことも、ついていく 決心ができなかった私自身も。 駅までの道の途中、いつも時間を潰したゲームセンターが目に入 る。 「寄ってこうか?」彼が正面を見たまま言う。 「まったく、本当に好きねー」 彼の笑い声、悔しがる顔。そんなのがたくさん思い出されて、うる さいはずの電子音も今日は聞こえてこない。それに、あれ、なんだ か変だな、視界がにじむ。 ゲームセンターの片隅。いつも二人で盛り上がったエアホッケー のテーブルの前に立つ。 「なあ、覚えてる?種の話」 「なに?」 「むかしおまえがさ、これに百円入れるの種を蒔くみたいだって言 ったの?百円を入れると風が芽を出すから風の種だって」 そう言って彼は百円玉を投入口に入れた。ぶーんという音がしてテ ーブルに開いた無数の穴から風が吹出し、見えない、けどそこにあ る草原を作った。特にパックを手に取るでもなく私達はただそれを 眺めた。この草原はいったいどこへ行くんだろう?きっと百円玉が きれると最初から何もなかったように消えるだけ。 「ちょくちょく戻ってくるよ。たまには種を蒔いてやんないといけ ないしな」 「ばか。待ってるんだからね、本当に」 私は彼に抱き着いた。 分かってる。私も、彼も。でも、そう言うしかないんだ。刈り取ら れることもなく消えていくこの風の草原のような私達には。 そんなふうに私の小さな季節は静かに終わった。そして、おかし な言い方かもしれないけど私はあの頃の彼を今でも愛している。き っと彼もあの頃の私を愛してくれていると思う。すぐに消えてしま うと思った私達の風の草原は今でも瞼に焼き付いて、見えないのに、 ずっと消えないのだから。
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