第23回1000字小説バトル
Entry3
柔らかな若草の上。 旦那と二人で寝そべりながら、ほのかな春の陽射しを身体全体に浴 びている。「春だな〜」と旦那の低い声が、私の眠気を誘惑する。 慌ただしい毎日から開放された私は、こんな時間を過ごすのは何 年ぶりだろうと、うつろな感覚の中でゆったりと考た。 いつも忙しい旦那。帰りは遅いし、たまの休みも自宅でパソコン に向かい、仕事か何かの書き物。自分は稼いでいるんだから好きに させてくれみたいな感じだけど、私から言わせればそんなの関係な いわ、自分勝手なだけよ、と思ってしまう。 娘達も手がかからなくなったのはいいんだけど、塾や部活や遊び で忙しくて、見えない所で手がかかるんだよね。 「ママ!明日、朝練あるから早く起こしてね」 「ママ!ユイちゃんと横浜行くの、チェックのスカートにアイロン かけててね」 「おい、今日は会社の仲間と飲みに行くから遅くなるぞ」 みんな自分勝手だわ、私だってやりたい事はいっぱいあるのに! 私の時間はどこに行ったの?昔は優しくて、何でも一緒にやってく れたのに、最近は私が全部やってるのよ!だいたいあなたも大きな 子供じゃない!私の事も少しは気づかってよ! 肩を怒らせて旦那に噛み付いた。旦那の驚いた丸目が点になって いる。子供達もビックリした顔で「ママ?大丈夫?」と私の顔を見 る。私は顔を横にプイッと反らした。 すると、どこからか聴こえてきた音楽に合せて三人が申し訳なさ そうにパラパラを踊り出した! えっ!何?なに踊ってンの?……夢? ほっぺがくすぐったい。遠い所で旦那の笑い声がする。 何なのこのほっぺの感覚は? 白々とした感覚の中、旦那が私のほっぺを何かでくすぐってる。 「やっぱ寝てたのか、こんな所でも無心に眠れるのはおばさんの証 拠かな」 私はムッとしたが、久しぶりに旦那の懐かしい笑顔を見て何とな く嬉しかった。 「ママ、ほら見て、向うの土手にいっぱいあるんだ」 旦那の手にはいっぱいの土筆が、いかにも「春ですよ〜」とばか りに可愛いらしい頭をのぞかせていた。 「それどうすんの」 「持って帰って食べるんだよ」 「えっ、どうやって食べるの?」 「お前知らないのか?これ旨いんだよ。大丈夫、俺作るから」 旦那は優しい笑顔で、私に「ほらっ!」と一本差し出した。 私はそれをつまんで、これって食べられるの?と思いながらも、 その可愛い姿に見とれるうちに、ちょっとだけ嬉しくなってきた。 「そっか〜尽くしんぼうか〜……。」
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