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第23回1000字小説バトル
Entry30

年頃

作者 : 羽那沖権八
Website : 小説屋やまもと
文字数 : 1000
「――あれぐらいの歳になるとな、娘もすっかり父親を嫌うように
なってな」
 会社帰り、おでん屋台で焼酎のコップを見つめながら、上司が自
嘲気味に笑う。
「そうなんでしょうね――あ、おじさん、ハンペンお願い」
「はいよ」
 皿に溜まったおでんつゆを飲みながら、四谷京作は相づちを打つ。
「そうさ、小さい頃はよく風呂に入れてやってたのに、お父さんと
一緒の風呂はイヤ、と、こうだ」
「まあ、風呂は抵抗あるんじゃないですか」
 四谷は焼酎をちびちび呑む。
「寝る時もな、昔はよく布団にもぐり込んで来たくせに、お父さん
と一緒の布団はイヤだと来る」
「年頃の娘さんがそれを嫌がらなかったら問題だと思いますが」
「それはただの始まりに過ぎないんだ、それから後は情け容赦なく
エスカレートして行くんだよ――兄さん、チュウお代わり」
「はいよ」
 とくとくどくどく――。
「半年前、お父さんと一緒の食器はイヤだと言って、別々に洗い始
めた」
「手間の掛かる事しますね」
「そして一緒に洗濯されるのがイヤだって、私のと別に洗濯機を買
う、私のと別にテーブルも買う、私のと別に土鍋も買う、私のと別
に車まで買ったんだ!」
 上司はなみなみと注がれた焼酎を一すすりした後持ち上げる。
「丁度そういう年頃なんじゃないですか? 今は適当に距離を取っ
て見守るとか」
「四谷、お前は子供がいないからそんな冷静な事を言えるんだ。頭
で分かるのと感情で寂しいのとは違うもん――うっ、げほっかほっ!」
 一気に焼酎を呑もうとして、上司は激しくむせる。
「お客さん?」
「わわっ、だ、大丈夫ですか?」
 四谷は慌てて上司の背中を叩く。
「うぷ、はぁ、はぁ、はあ、はぁっ、ぜぇ、だ、大丈夫、だ、こ、
こら、もう叩かんでいい!」
「あ、すみません、つい」
 しばらく荒い息をした後、上司は焼酎を一口呑んだ。
「極めつけは昨日だ。まさかあんな」
「何言われたんですか、今度は?」
 四谷はハンペンに辛子をぬる。
「あんな……あんな事。あそこまで嫌わなくても。仮にも血の繋が
った親子だってのに。いくら親子でもあんな全存在を否定するよう
な事を」
「言いたくなきゃいいですよ――おじさん、ちくわぶある?」
「四谷、お前人の話聞いてるのか?」
「もちろん聞いてますって。なんなんです、一体?」
「私のと別の――」
 上司はコップを握り締め、吐き捨てる様に言った。
「別の苗字を使い始めたんだ!」
「――めでたいだけじゃないですか、それって?」






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