第24回1000字小説バトル
Entry1
その瞬間だった。 ”展覧会の絵”の着メロが室内に響き渡ったのは。それは他を圧 倒するほど荘厳にして華麗であり、静謐なメロディーだった。 ただでさえ静かな空間が、より水を打った様にシーンとなり、腹 の底に沁みてきた。 西新宿の巨大ビルの地下階で、壁を隔て並んで座っている7人は 皆言葉を失っている。俺は眼前に広がる流氷の冬景色を思い出して いた。 「もしもし、はい、○○エステートです」 「ア、はい今現調中です」 (嘘つけ!タコ) 「はい、思ったより広い印象です。え、もちろん水洗ですよ。2DK でユニットバスです」(どうでもいいけど、携帯切れよ) やっと左が静かになったら、今度は右隣だよ。 おおッ!何だこのマヌケなメロディーは。こいつボス電持ってん のかァ。なかなか当たらないのになあ。(そんな事はどうでもいい んだよ携帯切れよ) 「あ、俺、今うん、スターバックスでカフェラテ飲んでる」 「え、渋谷駅前のだよ。女の娘のパンツが見えそうな。とにかく人 多いわ」 (よく言うよ。ここのどこがスターバックスなんだよ) ふーやっと静かになった。さあ集中するぞ! カラカラカラ...(おい、資源の無駄使いはするなよ) 今は集中する時なんだ。溜まりに溜まったストレスも欲望も一気 に昇華させるために、俺はこの場所を選んだのだ。 日本橋でも赤坂見附でも渋谷でもだめだ。ここ都庁の近くのこの ビルが一番心安らぐ空間を温存している。 目前の女は20歳前だろう。よくもまあここまで開けるもんだ。 親が見たら泣くぞ。きっと鼻水をすすりながら深く沈み行く錘りの 様に、一心に泣くぞ(そんな事はどうでもいいんだよ。これがこい つの仕事なんだから。オ○ンコで生計をたてる特化したビジネスじ ゃねェーか) よく見ると単細胞生物から進化してきた貝類の口だなこれは。グ ロテスクとは思わないが、ハゲ爺みたいに『綺麗だよ!』を連発し たくもない。 複雑な心境になってきたせいで、急に萎えはじめた。使用後の開 き直った倅の姿がそこにある。最初の携帯着メロから嫌な予感がし ていた。 ぺージを捲ってみる。若くはないが、人妻の色香に勝るものは無 いな。今度は成功しそうだ。何故なら、銀河系の中に浮かんだ星団 の煌めきが網膜に蘇ってきたからな。大成功の予兆はいつもこうだ。 いよいよその瞬間に導かれる天使の気分に浸りかけた時、ぷーッと 大音響がした。 ああダメだ! 倅がまた拗ねはじめた。
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