第24回1000字小説バトル
Entry1

『静かに、いかせて』

作者 : 有馬次郎
文字数 : 997
その瞬間だった。

 ”展覧会の絵”の着メロが室内に響き渡ったのは。それは他を圧
倒するほど荘厳にして華麗であり、静謐なメロディーだった。
 ただでさえ静かな空間が、より水を打った様にシーンとなり、腹
の底に沁みてきた。
 西新宿の巨大ビルの地下階で、壁を隔て並んで座っている7人は
皆言葉を失っている。俺は眼前に広がる流氷の冬景色を思い出して
いた。

「もしもし、はい、○○エステートです」
「ア、はい今現調中です」 (嘘つけ!タコ)
「はい、思ったより広い印象です。え、もちろん水洗ですよ。2DK
でユニットバスです」(どうでもいいけど、携帯切れよ)
やっと左が静かになったら、今度は右隣だよ。
 おおッ!何だこのマヌケなメロディーは。こいつボス電持ってん
のかァ。なかなか当たらないのになあ。(そんな事はどうでもいい
んだよ携帯切れよ)
「あ、俺、今うん、スターバックスでカフェラテ飲んでる」
「え、渋谷駅前のだよ。女の娘のパンツが見えそうな。とにかく人
多いわ」 (よく言うよ。ここのどこがスターバックスなんだよ)
 ふーやっと静かになった。さあ集中するぞ!
カラカラカラ...(おい、資源の無駄使いはするなよ)

 今は集中する時なんだ。溜まりに溜まったストレスも欲望も一気
に昇華させるために、俺はこの場所を選んだのだ。
 日本橋でも赤坂見附でも渋谷でもだめだ。ここ都庁の近くのこの
ビルが一番心安らぐ空間を温存している。

 目前の女は20歳前だろう。よくもまあここまで開けるもんだ。
親が見たら泣くぞ。きっと鼻水をすすりながら深く沈み行く錘りの
様に、一心に泣くぞ(そんな事はどうでもいいんだよ。これがこい
つの仕事なんだから。オ○ンコで生計をたてる特化したビジネスじ
ゃねェーか)
 よく見ると単細胞生物から進化してきた貝類の口だなこれは。グ
ロテスクとは思わないが、ハゲ爺みたいに『綺麗だよ!』を連発し
たくもない。

 複雑な心境になってきたせいで、急に萎えはじめた。使用後の開
き直った倅の姿がそこにある。最初の携帯着メロから嫌な予感がし
ていた。
 ぺージを捲ってみる。若くはないが、人妻の色香に勝るものは無
いな。今度は成功しそうだ。何故なら、銀河系の中に浮かんだ星団
の煌めきが網膜に蘇ってきたからな。大成功の予兆はいつもこうだ。
いよいよその瞬間に導かれる天使の気分に浸りかけた時、ぷーッと
大音響がした。

 ああダメだ! 倅がまた拗ねはじめた。






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