第24回1000字小説バトル
Entry10

イントゥ ザ ブルーグラス

作者 : 梅田 小径
文字数 : 1000
 裏通りは瀟洒な敷石で固められてた。ほの明るい街灯を頼り、花
束を揺らす。タバコの自販機の前で歩を止め、ポケットをまさぐる。

 100円玉が2枚しかない。ラークの値札を見た。250円。肩
をすくめ、硬貨をしまう。
 再び歩きだせば、ぽつぽつと雨が降り出した。首筋を雫が伝う。
 暗い空。
 真っ黒な雲が、ビル間の天蓋を覆い尽くしている。自然少し小走
りになった。
 何とか本降りになる前に着く。辞書を思わせる門構え。濡れてい
ないことを幸運に思いながら、鈴の音と共にドアをくぐる。
 同時、外を無数の線が通り抜け、地面の波紋が著しく増えた。ふ
と表を見る。
「いらっしゃいませ」
 外よりも薄暗い店内で、静思なウエイターの声に引き戻され、席
を一望した。 お一人様ですか? いや、待ち人さ。怪訝な顔のた
ウエイターに手を振りかえす。
全面ガラスの窓際の席。すぐに気づいた。彼女は、朱のワンピース
を纏い、シンプルだが高価そうなブレスレットを着けている。
――遅かったわね。来ないかと。
 向かいの椅子に浅く腰をかける。持っていたはずの花束が無い。
何気なく外を眺めると、水面を流れていく、赤い花びらが見えた。
 蝋燭越しに向きあう。
――もっといい服を着てくればよかったな。
――ふふ、ナイトがプリンセスよりもいい格好したら困るわ。
――ナイトか。プリンスにはなれない?
――努力次第ね。
 料理が運ばれる。前菜か、フォアグラを野菜で覆った代物と、ワ
イン。
 彼女は、ゆっくりと注がれるワインを取った。遅れて注がれるグ
ラスを取り、目と同じ位置までそれを持ち上げ、彼女を見る。赤紫
色の液体越しの瞳は、紫水晶のように見えた。
「シャトー・ラジョンシュ。1974年物でございます」
 ソムリエがいなくなり、彼女は優雅にグラスを構えた。
――乾杯。あなたの努力に。
――再開の喜びに、乾杯の意味がある。
 優雅に交わされた杯。次々と運ばれてくる料理に交わされる会話。
けして安物ではない。
 最後のデザート終わり、彼女はタバコを吸った。煙と言葉が吐き
出される。
――今日は、会えて嬉しかったわ。
――僕もさ。ところで…
 ポケットから取り出した。掌のそれを見て、彼女は、タバコを取
り落とした。
「200円しかないんだ」
 彼女は、おもむろに箱を差し出す。翡翠色のLAKEの4字。
「タバコしかないの」
 外を見た。強い雨が残っている。明細も視界に入った。
 だが、ガラスはそれほど硬くなさそうだ。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆作品の著作権は各作者に帰属します。掲載記事に関する編集編纂はQBOOKSのQ書房が優先します。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。
◆スタッフ/マニエリストQ・3104・蛮人S・吾心・厚篠孝介・三月・羽那沖権八・北村曉