第24回1000字小説バトル
Entry15
土曜日の学校は、午後になると妙に静かで、木造部分の残る校 舎はタイムスリップしたのではと、錯覚させた。 「今日はもう、終わっていいから。」 ふいに、背中に澤田先生の柔らかい声が響いて、私はここがまぎ れもなく、現代の図書室だと実感した。 土曜の午後に残って本の整理をする図書委員の仕事はあまり人 気がない。でも、私はこの作業が結構好きだった。古い本の少し かび臭い匂いも慣れればいい匂いだ。「シン」って音が聞こえて きそうな程、静かな教室も好き。そして何より、澤田先生と二人 きり。 いつからだろう。こんな風に二人で作業する土曜日が待ち遠し くなったのは。もうずいぶん昔の事で思い出せなくなってしまっ た。 「もう、いいから。」 帰宅を促す先生の声に、 ― どうして?もっと一緒にいたいのに…。 何て返事はできるはずもなく、私は素直に帰宅の準備をした。 「何か予定があるんですか?」 「うん。子供を幼稚園に迎えにね。」 子供、という言葉だけがやけに耳にくっついて、目の奥が熱くな ってきた。 「子供かわいいですか?」 私は、ますます自分を追い込むような質問をした。 「ん?かわいいよ。そりゃ。」 返事を全部聞く前に、涙がこぼれてしまった。我慢できない。 「好きです。」 涙まじりの告白に、先生は、一瞬オトナの顔になった。でも、 すぐに先生の顔に戻って、ニッコリ笑った。 「それはね、はしかだから。きっとすぐ治るから。」 そう言って先生は教室を後にした。 はしか。そうなのかな。でも、先生知ってますか?はしかだと 思ってたら、もっとすごい病気だったって事良くあるんですよ。 それに、このはしかには特効薬がないから、こじれてしまいそう なんです。
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