第24回1000字小説バトル
Entry15

はしか。

作者 : 佐藤 和美
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文字数 : 695
土曜日の学校は、午後になると妙に静かで、木造部分の残る校
舎はタイムスリップしたのではと、錯覚させた。
 「今日はもう、終わっていいから。」
ふいに、背中に澤田先生の柔らかい声が響いて、私はここがまぎ
れもなく、現代の図書室だと実感した。
 土曜の午後に残って本の整理をする図書委員の仕事はあまり人
気がない。でも、私はこの作業が結構好きだった。古い本の少し
かび臭い匂いも慣れればいい匂いだ。「シン」って音が聞こえて
きそうな程、静かな教室も好き。そして何より、澤田先生と二人
きり。
 いつからだろう。こんな風に二人で作業する土曜日が待ち遠し
くなったのは。もうずいぶん昔の事で思い出せなくなってしまっ
た。
 「もう、いいから。」
帰宅を促す先生の声に、
― どうして?もっと一緒にいたいのに…。
何て返事はできるはずもなく、私は素直に帰宅の準備をした。
「何か予定があるんですか?」
「うん。子供を幼稚園に迎えにね。」
子供、という言葉だけがやけに耳にくっついて、目の奥が熱くな
ってきた。
 「子供かわいいですか?」
私は、ますます自分を追い込むような質問をした。
「ん?かわいいよ。そりゃ。」
返事を全部聞く前に、涙がこぼれてしまった。我慢できない。
「好きです。」
 涙まじりの告白に、先生は、一瞬オトナの顔になった。でも、
すぐに先生の顔に戻って、ニッコリ笑った。
「それはね、はしかだから。きっとすぐ治るから。」
そう言って先生は教室を後にした。
 はしか。そうなのかな。でも、先生知ってますか?はしかだと
思ってたら、もっとすごい病気だったって事良くあるんですよ。
それに、このはしかには特効薬がないから、こじれてしまいそう
なんです。






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