第24回1000字小説バトル
Entry2
蝶の蛹を見つけたのは私だった。雨のせいか5月にしては寒い日 で、ママはコタツに入ってテレビを見ていた。蛹のついた山椒の枝 は重みで少し歪み、蛹の表面は膨らんで黒い斑点が透けていた。 私はそのまま羽化を見守ろうとした。でも、ママが「寒いから家に 入れましょう」と枝を手に取った。心細い音がして枝は折れた。 翌朝、目覚めると蛹は羽化していた。生まれたばかりの蝶は苦し い息をつくようにゆっくりと羽を震わせていた。虫篭にはママが蝶 のために切ったオレンジがひとかけ入っていた。私も蝶を元気付け ようと瓶の蓋に砂糖水を作って入れた。蝶はオレンジにも砂糖水に も寄り付かなかった。蝶が何を欲しがっているのかが分からない。 私が図鑑を見ていると、ママが「理科の先生に聞いてみたら」と言 った。私はしばらく学校を休んでいた。「電話で聞けばいいじゃな い」ママはいつも私より先に解決策を口にする。「あなたが見つけ た蛹だから、あなたが電話して聞かなくちゃ」そして、一番心臓が ドキドキするところを私にさせようとする。 先生は留守だった。奥さんが「帰ったら電話するわね。」と言った。 先生から返事があったのは夜遅くだった。「蝶のことをよく知らな かったから詳しい人に電話したんだ。」先生は、砂糖水を綿に染み 込ませて虫篭に入れるといいと教えてくれた。それから羽について いる"リンプン"という粉が取れると蝶が弱ると教えてくれた。私 がお礼を言おうとするとママは受話器を取り上げて先生と話し始め た。「蝶が一晩何も食べないと死んでしまうんじゃないかとこの子 が不安がって。本当に申し訳ありません」ママは自分が遠隔操作み たいに私に電話をかけさせたことを先生に言わなかった。 数日後、私は虫篭の蓋をあけて蝶が出るのを待った。蝶は出口を 見つけられずにいた。ママは見かねて手を入れ、さんざん追いまわ したあげく、蝶の羽をつまんで空へ放り投げた。蝶は一瞬バランス を失ったが、よろけながら飛び立った。私は"リンプン"をいじっ てはいけないとママに言おうとした。でも私は結局言わなかった。 蝶はもう巣立ってしまったのだ。ママは蝶を見送ると、手の"リン プン"を払ってまたコタツでテレビを見始めた。
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