第24回1000字小説バトル
Entry21
「思ったとおりに書けばいいのよ」とミス・シグマは言った。 思ったとおりに書く、と僕は心に留めた。そして『思ったとおり に書く』と記した。 『と記した』と記した。 『と記した。と記した』と記した。 『と記した。と記した。と記した』と記した。 『と記した。と記した。と記した。と記した』と記した。 ……………………………………………………………………。 「そう、それでいいのよ」とミス・シグマは言った。 「何よ、これ」と妻は言った。 「小説さ」 「これが?」 「無を表現している」 「不毛な小説ね」 と、私は記した。『と、私は記した』と私は記した。 「やめて!」とミセス・ファイは叫んだ。「もういいかげんにして よ、きりがないわ!」 「ミセス・ファイ、君は勘違いをしているんだ。この小説は言って みれば合わせ鏡の言語化なんだ」 「ふざけないで!」と言ってミセス・ファイは俺の頬をはたいた。 そういえば昔誰かが言ってたっけ。『片方の頬をはたかれたら、 もう片方の頬を突き出せ』 ためしに俺は右頬を突き出してみた。ミセス・ファイは俺の右頬 をはたいた。 そこで俺は左の頬を突き出した。ミセス・ファイは俺の左頬をは たいた。 そこで俺は右の頬を突き出した。ミセス・ファイは俺の右頬をは たいた。 そこで俺は左の頬を突き出した。ミセス・ファイは俺の左頬をは たいた。 そこで俺は……。 『作者永眠』と記して、わたしはペンを置いた。 と記して、きみはペンを置いた。 「あなたはよくやったわ」とミス・シグマは言った。「そうよ、あ なたはよくやったわよ」 あなたはよくやった、と僕は心に留めた。 「もう書かなくていいのよ」とミス・シグマは言った。 もう書かなくていい、と僕は心に留めた。 「さあ、今度はあたしの番よ」とミス・シグマは言った。『あたし の番』とミス・シグマは記した。 『さようなら、みんなさようなら』と俺は僕は私はわたしは記して、 ミス・シグマのミセス・ファイの妻の無事を祈った。 『と記して、きみはペンを置いた』と記してミスターXはペンを置 いた。
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