第24回1000字小説バトル
Entry23

或る伝説の勇者

作者 : 羽那沖権八
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4587/
文字数 : 1000
 高校の昼休み、野上雪斗がいつものように安永和彦の隣の机に来
て、弁当を広げていた。
「――そういえばさ、よく『ナマコ喰ったヤツは勇気がある』とか
言うじゃん?」
 雪斗は言いながら、野菜の玉子とじを食べる。
「うん。言うね」
 弁当箱に詰まった昨日の残りの肉じゃがを、和彦はつまらなそう
に食べる。
「でも何でも、初めてのものを口にするには勇気がいるんじゃない
かな」
「そうでもねえって」
 雪斗は首を横に振る。
「フグなんて初めて喰ったヤツを凄いとは言わねーだろ」
「……あれはどちらかって言えば、二度目に食べたヤツの方が偉そ
うだね」
 肉じゃがの中にある一筋のシラタキを、和彦は箸で掴もうとする。
「ん。だからあのナマコのぐにゃぐにゃした目も口も分からない形
の気持ち悪さにはかなり抵抗があった筈だ。案外名前もなかったん
じゃないか?」
「別に喰わなくっても名前はあると思うなぁ――あ」
 彼はようやく箸で掴めたシラタキを口に運ぼうとしたが、寸前で
また弁当箱に落ちてしまった。
「いやいや、名前なんて曖昧なもんじゃん。ウミウシの一種ぐらい
にしか数えられてなかったかも知れねーぜ」
「言われてみれば確かにそうかな」
「人類を引っ張って来た勇者は、学者でも冒険家でもなく、案外そ
ういった身近な気持ち悪さを払拭し続けた勇者たちなんじゃないか
と思わねえか?」
「なるほどねえ。ナマコもそうだけど、ワィラゴなんかもよく考え
ると異常な食材だもんなぁ。ぶよぶよしてるし、もさもさ毛が生え
てるし、ぶっとい血管浮き出てるし」
 和彦は諦めて、弁当箱を持ち上げて口に直接シラタキをかきこん
だ。
「ワィラゴって――なんだ?」
 訝しげな顔で雪斗が訊き返した。
「ワィラゴは、ワィラゴ……でしょ?」

 家に帰った和彦は母親と夕食をとっていた。
「これ美味しいね」
 和彦は旨味の強い平べったい揚げ物をいくつも食べる。
「本当。ずいぶん久し振りのヒットね」
 嬉しそうに母親も揚げ物を食べる。
「久し振り?」
「そーねぇ。これでワィラ六かな。その辺で採れるものは、材料代
が浮いて助かるわぁ」
「ワィラロク……ワィラ五、ワィラ六?」
 もっちりした歯触りを感じながら、和彦はゆっくりと口を動かす。
(あんまり認めたくはないんだけど)
 にこにこしながら揚げ物を食べている母親を横目で見ながら、和
彦は揚げ物に混ざっていた固ものを、ぷっと吐き出す。
 螺旋状の骨が取り皿に落ち、キン、と高い音を立てた。






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