第24回1000字小説バトル
Entry25

ヘンシン

作者 : 川島ケイ
Website : http://www4.plala.or.jp/riverland/
文字数 : 1000
 変身ヒーローもののテレビ番組は好きだったけど、そんなヒー
ローになりたいと思うことはなかった。怪獣なんて怖いし気持ち
悪いし、大変だなあ、と子供ながらに同情しつつ、ヒーローの活
躍を見守っていた。それなのに。
 とつぜん落ちてきた赤いバッジを拾った。ただそれだけのこと
だ。そうしたらそのバッジは僕の手のひらに吸い込まれていき、
そこには「J」という文字が浮かんだ。
 僕が怪獣を目にした途端、僕の意思とは関係なく変身が始まっ
てしまう。そのときの感覚が、僕はものすごく嫌いだ。内側から
乗っ取られていくような感覚。不愉快を通り越して腹が立つ。

 友達との待ち合わせがあったので、変身覚悟で外に出た。なる
べく怪獣なんて見たくないんだけど、ずっと家に閉じこもってい
る訳にもいかない。僕にだって普通の人間としての生活はあるの
だ。
 友達がまだ来ていなかったので、そばにあったベンチに座って
待っていると、ふいに地面が揺れた。もう分かっている。これは
地震じゃない。
 うんざりしているうちに、揺れは大きくなり重々しい足音が近
づいてくる。どういうわけか彼らは、僕のいるところに寄って来
るのだ。覚悟を決めて、足音のする方に目を向けた。
 2本の首と黒光りする鱗が特徴的なその怪獣が目に入ると、い
つものごとく不快な感覚が湧き上がってきた。何度味わったって、
この不愉快さは消えない。
 手のひらの「J」が赤ク輝く。ソノ赤が体中に広がり、衣服が
裂ケる。みるミルうちニ巨大化しテイく全身に力がみなギリ、憎
ラシキ怪獣を退治スル準備がトトノッタ。
 赤ク輝クオレヲ前ニシテ醜イ化ケ物ハモハヤ怖気ヅイテイル。
シカシ手抜キナドセヌ。徹底的ニ叩キ潰スノミダ。
 殴ル、蹴ル、放リ投ゲル。ナギ倒サレルビル。逃ゲ惑ウ群集。
破壊ノかたるしすガオレヲ恍惚ヘト誘ウ。化ケ物ガヨロケナガラ
立チ上ガッタトコロデ、両腕デ「J」ヲ形取リ、化ケ物ニ向ケル。
絶望ニ顔ヲ歪メル化ケ物ニ容赦ナク放ツJびーむ。燃エ上ガル化
ケ物。ソノ姿ヲ見テ勝利ノ咆哮ヲアゲルト、オレの体ハ次第に小
サクなッテいく。肉体ガ人間らしサヲ取り戻していき、目に映ル
周囲の惨状に胸が痛くなる。
 完全に素っ裸だが、この状況ではそんなことに目を止める余裕
のある人はいない。泣き叫ぶ人々の姿を見ているとやりきれなく
なってきて、腹が立ってきて、手のひらの「J」に唾を吐きかけ
てみた。また余計に、不愉快な気分になるだけだった。






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