第24回1000字小説バトル
Entry26
蛇がいた。 自宅アパート駐輪場のコンクリートの床の上。そこに蛇がいた。 昔からあたしは動物が嫌いだった。 特に動物の目が嫌いだった。つぶらで、何も見ていないような、 それでいて全て見透かしているような、その目。 嫌いだった。 全ての意味から解き放たれたような目。全ての罪から解き放たれ たような目。彼らはそんな目をしながら、例えばライオンはウサギ を食べ、チーターはシロウマを食べ、そして食べた方も食べられた 方もあの「罪の無い目」のままなのだ。 許せなかった。 (あやちゃん、あやちゃんはどっちについてくるの?ママでしょう ?ママだよね?) (あやはパパについてくれば良いんだ。パパについてくるだろう?) パパ。ママ。 可哀想なパパ。可哀想なママ。何もかもを欲しがるあの人達の罪 を慰める事が出来るあたしは一人しかいないのに。 子供の頃、よくアリを殺して遊んだのを思い出した。アリをライ ターで焼くととてもイヤな匂いがして、だからそれがアリの罪深さ の証拠になるような気がして、とても安心した。そうしなければあ たしは眠れなかった。 蛇と目があった。 相変わらずの、動物特有のあの、何も見てないかのような目。何 にも捕らわれていないかのような目。 (どうすれば) どうすればあたしはこうなれたのだろう。どうすれば、どうすれ ば何もかもから逃げられたのだろう。あたしはどうすれば良かった のだろう。あたしは何を選べば良かったのだろう。 世界は戦争ばかりで、夜はとても長くて、昼は嘘に満ちていて。 そしてあたしは今でも不眠症で、死んだアリの代わりの何かを今で も捜そうとしている。 楽園でアダムとイブに罪を教えたのはお前達であるはずなのに。 するり。 不意に蛇が動き出した。 (噛まれる?) そう思うと震えが、ほとんど恍惚と言ってさえ良い震えがあたし を捕らえた。 するすると蛇は、滑るように這い寄ってくる。 (ついにこの日が来た) ついに。なんでそんなことを思うのだろう。 しゅるん。 軽く音をたて蛇はあたしの足下に飛び掛かった。 そして。 そして、蛇はあたしの足下にいたカエルをくわえると、優しく、 ほとんど愛撫を加えるかのようにカエルを優しく飲み込み、行って しまった。 (ツミトハ、イッタイ、ナンノ、コトデスカ?) そう言いたげにこちらを一度だけ振り返り、行ってしまった。 あたしの身体になんか一回も触りもせずに、蛇は行ってしまった。
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