第24回1000字小説バトル
Entry28
もう4日になる。道を間違えた。麓近くまで来ているという確信 はある。だがもう歩けない。 小鳥がさえずっていた。朝の光がうっそうとした枝の間から、い く筋もの光となって、下草を射している。光の加減からか薄暗いは ずの場所なのに全体的に淡い。まるでセピア色の世界のようにゆっ たりと時間もながれているようだ。近くを川が流れているのか、チ ロチロと水の音が聞こえてくる。 私は音のする方へ、惹かれるように近寄っていた。カサッと音が したと思うと、そこにはこちらを向いた女の子が立っていた。 彼女の髪は砂色だった。全体に細かく巻いていてふんわりとし、 極彩色の鳥の羽根と蔦のツルが砂色の髪を巻き込むように彩ってい た。頭の上からひな鳥がピーチクさえずりそうにも見えないわけで はないが、不潔な感じではなかった。 全体的に希薄な感じがするのは着ている服のせいもあるのかも知 れない。髪の毛にも似た枯色とでもいうのだろうか、落ち葉を連想 させる色あいが、幾筋もの光の中風を受けてゆっくりと漂うように まといついていた。 まるで妖精だった。思わず笑みがこぼれてしまう。見ているだけ で幸せな気がした。 だが思い出そうとしても、どんな顔だったのか思い出せない。 私に少しづつ近づいて来る彼女は、近づく度に成長していった。 私の目の前に来た時には、もう立派な大人だった。 彼女が手を横に払うと、枯色の服はハラハラと足元に落ちていっ た。眩しい彼女の肌が朝日に輝いていた。彼女は私の肩に手を乗せ 顔を寄せてきた。見つめる目と巻きついた手が私を混乱させたが逆 らえなかった。 まるで夢だ。疲れきっている私にはどうする事も出来なかった。 夢の中だという意識もあったのだろう。私は彼女のされるままにな った。しかし私は幸福感で満たされていた。 『男よ。これでお前は助かるだろう』 彼女の口は動いてはいなかったが、突然頭の中に声が聞こえた。 少し悲しそうな顔をしていた。神々しい感じがした。 「あなたは、一体…」 『この森の精だった』 「だった?」 『私は人に見られると長くは生きていられない』 「何故?」 『これは運命。死にかけているお前に、命の息吹を吹き込んだだけ だから、心配せずとも良い』 それから何かを聞いた気もするが覚えてはいない。 病院で目覚めた私は彼女の事を聞いたが、近くには誰もいなかっ たという。 後で聞いた話によると、私が発見された森は道路工事で無くなる らしい。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆作品の著作権は各作者に帰属します。掲載記事に関する編集編纂はQBOOKSのQ書房が優先します。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。
◆スタッフ/マニエリストQ・3104・蛮人S・吾心・厚篠孝介・三月・羽那沖権八・北村曉