第24回1000字小説バトル
Entry3

オーディション

作者 : のぼりん
Website : http://www5.ocn.ne.jp/~nobotyan/index.html
文字数 : 1000
「だから、一度行ってみなよ」
 と、男は妻に声をかけた。食卓に広げた新聞の広告欄に、タレン
ト募集の記事が大きく出ている。彼はその記事を指差して、乗り気
のない妻をもう一度振り返った。
「君みたいな美人が普通の主婦なんてもったいない話だよ。その顔、
その体、その足、今テレビに出ているどんな美人タレントにも負け
ないね」
「バカ言わないでよ、そんな夢みたいなこと。だって私、演技の勉
強なんてしたことないのよ」
「この記事をよく読んでごらんよ。演技なんて二の次さ。問題はテ
レビを見た人々が、どれだけ君に魅力を感じるかということなんだ
よ」
 男はどうしても自分の妻の美しさを、他人に誇りたくて仕方がな
いようだった。

 声優は声がきれいで演技力があれば、容姿などはあまり関係ない。
芸能界も分業化されているようである。例えば、化粧品や下着のコ
マーシャルには、指タレントとか肌タレントとかいう、専属のモデ
ルもいるらしい。
 あるストッキングメーカーのタレント募集の会場では、自分の足
に自信を持つ女性が何十人も集まっていた。オーデションに集まっ
た女性たちの、美しく健康的な腿やふくらはぎの稜線は、どれも見
事なものである。
 その審査も中盤に入った頃だった。エントリーナンバーが読み上
げられると、舞台にひとりの若い男性が現れた。
 会場中が意外な出来事にシーンと静まった。
 司会者も次の言葉を捜すのにもたついている。肝心の両足はスラ
ックスで隠れているのだが、まさか、このいかつい男が女性?
 審査員のひとりが慌てて、舞台の男にマイクを差し出した。
「男性のあなたがエントリーしているのですか?」
「いえ、私の妻なのですが、どうしてもここには来たくないと言い
張りまして、朝からそのことで夫婦喧嘩になってしまったような次
第でして…」
 男は、あっさりと答えた。
「それじゃ困るよ。男の君が代わりに来たって…」
 司会者の言葉に、審査委員のひとりが思わず声を上げて笑い出だ
した。すると、あちらこちらから次々と笑い声が洩れ、おしまいに
は会場中が爆笑のうずとなった。
 男はとても申し訳なさそうな顔でうつむいた。
「仕方がありませんでしたので…」
 そういって、傍らに置いてあったキャディバッグを手元に引いた。
彼はその中からおもむろに「モノ」を取り出したのである。
「見て下さい」
 血の気がすっかり失せてしまったその「モノ」は、確かに他の誰
のものよりも白く美しかった…。






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