第24回1000字小説バトル
Entry30

日曜の朝、カクガリ。

作者 : T-Ben
文字数 : 998
 毎月第二日曜日の午前八時、開店時間きっかりに必ずやって来る
客がいる。
「よぉ、けんちゃん。いつものヤツ。よろしく頼まぁ」
 その客は中に入ると早口でまくしたて、いつのまにかシートに座
っている。
「角刈りで」
「おぅ、頼まぁ」
 そして僕は、いつものように作業をはじめた。
 "寺脇理容店"
 小さい頃は床屋だけにはなりたくないと思っていた。けれど、中
学を卒業する頃には床屋ぐらいしかなれるものがないということに
気が付いた。
「親父さん、まだ寝てんかい?」
「いやぁ、そんなことないっすよ。うちの子供と一緒にテレビでも
見てんじゃないかなぁ」
「どこも一緒だねぇ。親バカならぬジジバカで……」
「ジジバカっすか」
 俺は、相鎚をうちながら髪を切っていく。
 おやっさんはもう三十年近くうちの床屋に通っているという。
 なにしろ大工の棟梁になってからずっと角刈り。しかも寺脇理容
店一筋。
 初めて俺がおやっさんを散髪したとき、切り終わったと同時に俺
はなぐられた。しかもグーで。
「ばかやろー!そんな半端な仕事で銭がとれると思っとるのかぁ!」
 俺は学校で習ったとおりの角刈りに仕上げたのだけど、おやっさ
んに言わせると「角がなっとらん!」ということだった。
 なにしろ大工だから、何事においてもきっちりしていないと気が
済まないらしい。
 それ以来、俺はあまりおやっさんが得意ではない。
 あらかた切り終わり、背もたれを倒して髭剃りにとりかかった。
 矢継ぎ早にしゃべりかけてきたおやっさんも、さすがに黙って目
を閉じている。
俺は白い泡を塗りながらおやっさんの顔をじっと見た。シワが深く
幾重にも刻まれているが決して弛んでいないハリのある皮膚は、梅
酒のビンの底に沈んでいる、よぉく漬かった梅を思わせる。確か俺
の親父よりも年上だと思ったが、全然こっちのほうが若々しく見え
る。
職業の違いだろうか。床屋と大工じゃ身体の動かしようが全然違う
ものなぁ……。
 洗髪をしてドライヤーをかけると作業は終わりだ。
 おやっさんの髪を乾かしているときにいつも思うことがある。
 てっぺんがかなり薄い角刈りっていうのは何かヘンなものだなぁ
と。
 【 】
 上から見るとこんな感じ。
 髪を乾かし終えて作業がすべて終了した。
「ありがとよ、けんちゃん」
「お疲れさまでした」
 おやっさんはすっきりした顔で店を出ていった。
 角刈りっていうかカッコ刈りだよなぁ、俺はいつまでもニヤニヤ
していた。






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