第24回1000字小説バトル
Entry5
電話の後、ふと、そばが食べたくなった。 何だか妙に腹が減っていた。 こういうときは肉料理でも食うに限る。と、思ったのだがどうい うつもりか腹は「そばをよこせ」と騒いでいる。冷蔵庫の中には、 ちゃんと肉も材料もあるというのに。 仕方が無いので早速下宿近くのスーパーへ自転車で向かった。二 度の信号待ちと横断歩道横断の後、スーパーに着いた。自転車の鍵 を乱暴に閉め、積み上げられた買い物篭を乱暴に引っつかんで自動 ドアをくぐった。 中に入ると、すぐに山芋入りのざるそばが目に入った。側には赤 と黄色の、安売りを告知する札がちょこんと掲げられている。さっ そくそれを籠に入れる。これで今日のそばは、ざるそばに決定であ る。生わさび、長ネギも見つけたが、つゆは買わなかった。下宿の 冷蔵庫にまだ前の残りがあるからだ。 レジで千円札を出し、いくらかお釣りをもらうと財布の小銭入れ がさらに膨らんだ。長ネギ、ざるそば、生わさびを手早くビニール 袋につめると、空になった籠をその場に残し、足早に自転車に向か った。 二度目の二度の信号待ちと横断歩道横断の後、下宿に戻った。 早速、鍋にお湯を入れて強火にかける。鍋のお湯がぼこぼこと沸 騰しはじめた。そこへ、スパゲティと同じ容量でざるそばを投入す る。硬かった麺が、見る見るうちに柔らかくなっていく。あとは吹 きこぼれに注意しながら待つこと五分。タイマーがぴりぴりと鳴っ た。火を止め、鍋の中身を用意しておいたザルに開け、流水にさら しておく。あとは、生わさび・きざみネギを入れたつゆを作れば、 ざるそばの完成である。 ずるずると音を立てながら、ざるそばをほおばる。生わさびの入 れ過ぎで、鼻がぴりぴりする。だが、無性にうまい。 「ああ、うまい」 思わず口に出してしまった。 食べ終わり、何も考えずに欠伸をすると、それに申し合わせた様 に電話が鳴った。 目の前に置かれた子機に手をのばし、電話をとった。耳にあてる と、前の電話と同じ声が「もしもし」と呼びかけてきた。 「さっきのじゃあ、何だか中途半端な気がしたから…大丈夫?」 「まあ、な。せやけど、そば食ったからもう大丈夫やて」 「…ふーん…あたしって、そばで代用できるのね…」 「へ?」 子機に目を向けながらしどろもどろする。すると、受話器のむこ うからかすかに含み笑いが聞こえてきた。 明日は5月1日。 テーブルの上には、長距離夜行バスの切符が置かれていた。
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