第24回1000字小説バトル
Entry8
五月雨の朝僕は夢を見た。 目覚めた時の不思議な気持と、なんとなく清々しいこの感覚。 まるで宙を静かに走るリニアに乗っていた様な気がした。 昨夜遅く叔母からのメールが届いた。 短い文章だったが、僕は懐かしい香りを充分に感じ、僕の原点が何 処にあるのかを、はっきりと知らせてくれた。叔母は兄さんと書い ていたが、親父をいつもそう呼んでいた事を思い出し、今でも変わ らないゆっくりとした時間がそこにある事を感じた。 淡々とした言葉が綴ってある中に 「鉄ちゃん、はよう帰っといで」 が何故か嬉しかった。 どうも親父は、一つの人生に終わりをつけるらしい。今度親父が 定年になり、とうとう永年勤めてきた鉄道の仕事から離れる事にな ったと書いていた。 あの頑固な親父が仕事を辞める。これからどうするのだろう? なんて考えてみたが、あの親父なら心配する様な事も無い気がする。 ふっとそんな風に思ったら、急に親父に逢いたくなった。 丁度明日は休みだし、親父と叔母をびっくりさせようとインターネ ットで新幹線の時刻を確認した。 僕が親父を心配していないのは、まず叔母がそばに居てくれてい る事と、昔から僕を一人で育ててくれ、僕も親父の事が割と好きで 尊敬しているのかな〜? 多分よぼよぼになる前には、僕が綺麗な お嫁さんを連れて帰る事を、ずっと前から決めているからだろう。 そんな事を色々考えているうちに僕はすっかり眠ってしまった様 で、あの夢を見たのかもしれない。 ……親父が振り返りながら、にやにやと笑っている。 僕は親父の手に捕まり、その色黒の顔から覗く真白な歯を見上げ、 少しもた付く脚を砂利につまづきながら必死で歩いていた。 親父がようやく僕の手を放し 「乗ってみるか?」 と僕を抱え上げ真新しいディーゼルカーの運転席の扉を開けた。 僕はその運転席から見える真直ぐな線路と、陽炎に揺れるレールの 先を見つめ 「父さん、このレールはどこにつながってるんだ?」 と親父に聞いた。 親父は僕を見つめ少し考えて、鼻の横を照れ臭そうにかきながら、 そっと小さな声で 「おまえの未来さ」 と言って笑った……。 今僕は、皆が待ち望んでいるリニアの開発に携わっている。 そして今朝、親父と一緒にそのリニアに乗った夢を見た。 それはなんとなく、近い将来の夢を見ている様な気がした。 さあ!そろそろ、出かけないと乗り遅れてしまう。 部屋から出ると、朝の五月雨が、街路樹の若葉を色濃く緑に染めて いた。
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