第24回1000字小説バトル
Entry9
僕の妻は文字通り妖怪である。 そもそもは30過ぎて一人ヤモメなのを同僚にからかわれ、苦し 紛れで家に憑いている妖怪を妻だと言ったのが始まりだった。 妻は妖怪であるからには家事などせず、夜な夜な辺りを徘徊しは 隣人達を脅かしている。もちろん性交渉なども望めないが、いがみ 合いテレビに出て来てまで喧嘩するような夫婦達に比べれば、いく らかマシではないだろうか。それに妻は美人だ。向こう側が透ける ほど白い肌や、風もなくユラユラと漂う黒髪がとても美しい。そし て何より、あのヌラヌラと輝く瞳が堪らない。僕は見つめられるだ けでイってしまいそうになる。 同僚達にも妻の良さをわかってもらいたいのだが、なかなか上手 くいかない。会えばわかると言っても、断わられるばかりだ。 「最近は話さえ聞いてくれないよ」 僕は愚痴る。年上の妻に甘えてしまうのは悪い癖だ。 妻の冷たい手が頬に触れる。暗がりで表情は見えないが、きっと 愉悦の笑みを浮かべていることだろう。妻は人の苦しむ姿を見るの が好きなのだ。 「ねぇ僕が死んだら泣いてくれる?」 一向に温まらない手に頬を摺り寄せて聞く。永遠とも言える命を持 つ者にも寂しいとか、悲しいと言う感情はあるのだろうか。 ”泣くものか、おまえの子に憑くだけじゃ” と、妻は素っ気無い。しかし僕は何か引っかかるものを感じていた。 それから数日後、わけあって2匹の子猫を手に入れた。 あの日、妻を問いただしてわかったことがある。それは僕の家系 が途絶えると、家に憑いた妖怪も存在できなくなるということだ。 僕で家を途絶えさせてはいけない。なんとしても子供が必要だ。 僕は懐の子猫を抱え直す。大事な息子と、その嫁である。本当は 人の子供が良かったのだが…まぁしかたない、妻は妖怪なのだから 子供が猫でも構うまい。あとは妻は気に入ってくれればいいのだが。 僕の心配をよそに、妻は子猫を抱きしめると喜びの涙をこぼした。 ”ありがとう”そう聞こえたのは幻聴か。 妻は消えた。子猫と共に。それは瞬く間のことだった。 やがて僕は思い出した。妻が「子探女」と言う妖怪だったことを。 なんてことだろう、妻は我が子を手に入れ成仏してしまったのだ。 その後、僕は落胆の日々を送っている。しかし幸いにも手元には 一匹の猫が残された。美しいメス猫である。すっかり大きくなって 僕に悩ましげな視線を送ってくる。今度は猫女房も悪くないと思う 夏の夕暮れである。
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