眠け眼
泥人形
朝、学校へ行く道すがら後ろから肩を叩かれる。半分夢うつつであった中西は驚いて振りかえる。
「よぉ」同じく眠そうな青田が立っていた。
「おぉ」反射的に中西は答える。
その後、沈黙が続く。今は朝である。そして大学生、男同士、こんなもんである。中西は青田の存在を横に感じながら大学へと続く道をぼんやりと眺めている。時折、視界の端に自分の履いているスニーカーが見え隠れする。
青田が決まり悪そうに話し掛けてくる。
「おまえ、耳?」
「ミミ?」青田が何を言おうとしているのか解からない。
「耳、大丈夫か?」
「耳?何が?2つじゃ足りないか?」
「そうじゃなくて、なんかヌルッとしてる」
「ヌルッと?」
「うん、何だろ?上手く言えないんだけれども…いや、でもヌルッとしてるよ。気付かないか、自分で?」
青田が何を言っているのかが解からないが、自分の耳が一大事になっていることだけは理解した。でも中西には痛みは無い。それに眠さのせいか、別に自分がどうなっても良いと思っている。殆ど他人事だ。そんな目で見ると心配そうに自分の顔を覗きこむ青田が滑稽に見えた。大体が青田はゴリラに似ている。鼻息も荒い。口も臭い。「こいつ胃が腐ってんじゃねーか」と思うほどである。どうりで女にもてない訳だ。まあ俺も人のこと言えないか、中西はそんな事を考えていた。
中西は思った。ドッキリなんじゃないかと。こいつはただ、俺を驚かせようとしているだけじゃないのかと。そうと分ればこっちのものだ。
深刻そうな顔して中西は言った。「3ヶ月なんだとよ。」
「えっ!?」
「昨日、医者に見てもらったんだ。そしたらもって3ヶ月だって。もう少しヌルッとしている前に行けば間に合ったらしいんだけ、ここまでヌルッとしちゃうと今の医学では無理なんだって」
青田は何も言わない。ただ「そうか」と呟くだけである。
こいつ役者だな、中西は思った。畳み掛けてやれ。
「触るなよ、伝染るらしいから。」
青田は「そうか、そうか」と呟くばかりである。
学校に着くと、丁度、始業のチャイムが鳴った。青田は「俺、教室こっちだから」と言って、指差した方へ小走りに駆けて行った。青田は途中、何度か振りかえり中西を見た。3度目に振り返った時には中西の姿は無かった。
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