不安な会話
高橋賢太郎
「ねえ。知ってる?不安はたくさん集まると、どうなると思う?」
「うーんわからない。もともと不安ってどこにあるの? 不安ってなに?」
「そうね。不安ってもともとどこかにあるものではなくて 最初はないの。でも不安の種は誰でももっていて、それがいつのまにか成長して不安になるのね」
「不安の種って誰でももってるんでしょ? 誰でも大きくなるの?」
「いいえ。そうとは限らないわ。不安は不安を大きくすることをしなければいいの。でもそううまくはいかないことが多いけど」
「でも教えて…。どうしなければいいの?」
「そうね。君がこれから不幸になるとするわ」
「うん。でもどうして?」
「まずは少し不幸になったりしてみなくちゃ」
「うん」
「じゃあ、まず試しに、明日、君は学校でいじめられる」
「どうして?」
「不安になるためよ」
「それって怖いの?」
「そうね、そうなればあなたはしばらく笑えないわね。いつも誰かが、あなたから楽しみを奪おうと機会をうかがってるわ。教科書をやぶってやろう。ふでばこをごみ箱にすててやろう。帰りに待ち伏せしてたたいてやろう…」
「……なんかいやだよ」
「いいから、そんな自分を想像してみて…おまえのえんぴつを折ってやろう…」
「……いやだよ」
「どう今。うまく笑えるかしら?」
「……怖いよ」
「今の気持ち。これが不安よ。時には恐怖とも言われるわ。この最初の小さな不安が。不安を積み重ねるごとに大きくなるの。ほら大丈夫だから、不安がらないで。ごめんなさいね。決して学校でいじめられたりしないわよ」
「ほんと?」
「うん。ほんとよ」
「…よかった」
「怖かった?心が疲れたでしょう…。すこし休みましょう。不安はとっても疲れるから」
「うん。そうだね。確かにつかれるよ…」
「ほら少し眠りなさい。そばにいてあげるから」
「うん…」
女は眠りついた子をやさしいまなざしで見つめていた。
そっと子の髪をなぞりながら、静かに思った。
『まだまだ。この子に不安を与えなくては。とにかく、今はゆっくりと休みなさい。まだ始まったばかりなのよ…』
いっそうやさしい目をしたが、どうしてだろう、女は顔はいたって無表情だった…。
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