君の街は僕の街
有馬次郎
無人駅のホームの改札口付近に寝そべって目を凝らすと、見事なカーブを描きながら鉄道レールが左右対象に伸びていて、その設計の緻密さに驚かされる。
中央部がせり上がった高架下の駐車場の車の殆どは、埃こそかぶってはいないが、少し色あせてみえる。
先程からレゴ大臣と鉄道大臣が車を見ながら話し込んでいる。傷だらけの赤いフェラ−リとガンメタのポルシェだけは、いつもの定位置に駐車されていて、決して期待を裏切らない。鉄道大臣の自慢の車種が、この2台と銀色のタンクローリーなのだ。
この街で、先々週の日曜日にレース場担当の建設大臣が、わがままを理由に失脚したばかりで、ほとんどの職務を、鉄道大臣とレゴ大臣が分担し合いながら、街づくりを進めてきていた。
「フェリーボート到着です。ドドド......」
レゴ大臣が呼称を繰り返す。ドドド。
桟橋付近には次の乗船予定の車が一列に並べられていく。レゴ大臣の額には汗が光り、とても集中しているのが判る。鉄道大臣はミドリ色の恐竜まで乗ったフェリーを一瞥しただけで興味がないのか、目玉のくるくる動くSLを貨車倉庫へ移動させ始めた。
建設大臣の健在の頃は、事故続出の四駆レースが、必ず開催されていたものだ。三大臣が一番好きな心和む時間だったと聞き及んでいる。この時ばかりは、SLもフェリーもティラノサウルスもおもちゃ箱の中だ。飽きるまで同じ事を繰り返す彼等にとって、無駄なことなどなにもない。キャンディーは甘いからこそ意味を持つのだ。
日曜日の彼らの街は、夕焼けの黄昏時に、いっそう輝きを増す。本当に眩しくて寂しくなる。何故なんだろう。いつも決まってレゴ大臣が真っ先に元気を無くし、鉄道大臣が唇を噛むことになる。
マンションの玄関先で、両大臣の密談が始まる。
「レース場、来週作る?」
「うん。今度は建設大臣も呼ぼうか」
翳りゆく夕陽の残光のなかで、二人の目玉はツルンと光っている。
「僕のフェリーだけは壊さないで。バイバイ!」
レゴ大臣は咄嗟に廊下へと駆け出して行った。
彼は、きっと一度だけ振り返るであろう。長い廊下の突き当たりを右に曲がる前に。照れ隠しの精一杯のパフォーマンスを演じる為に。
鉄道大臣は、まだ手を振続けている。
止まった時間の中で、黒兎は振り返らずに、ピョンピョン跳ねて、陰に吸い込まれる様に消えて行った。
耳になるはずの両手が、両眼を押さえているように滲んで見えた。
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