第25回1000字小説バトル
 Entry15
 
フロア
 
加納 利夫
 
 
 絶え間なく煌く色鮮やかなフラッシュライトが揺れる人の波を輝かせ、空間を震わせながら断続的に爆発するバスブーストに合わせて波は大きくうねる。やがてそのうねりは熱狂に包まれ始め、永遠に続くかと思わせる低音の刻みに背中を押されて興奮は空間を完全に支配する。リズムに完全に飲みこまれた空間はそれ自体が生き物のように一体感を持ち、その生き物は形を変えながら飲み込んだすべての人の高揚感を集める。輪郭をゆっくりと溶かされた人の波を包むもの、それは陶酔だ。うねり揺れる人の波は巨大なエネルギーを集め、リズムと興奮が渦巻いている空間と混ざり合い、不思議な化学反応を起こして陶酔を生む。陶酔はやがて完全な一体感を求めて、くるくると螺旋を描きながら一つの到達点を目指している。
 踊る人の群れは皆、発狂寸前の忘我の前に不安を隠した緊張感が波の間を漂っているのを感じている。この爆発的な高揚感が途切れてしまうことを潜在的に恐れているからだ。リズムが永遠に続き、胸の奥から溢れ出る興奮が感覚を支配し、やがて訪れる到達点が圧倒的な快楽を産みもたらしてくれることを欲している。
 その到達点は恍惚だ。恍惚が素晴らしく見事な快楽を産み出す。その波が巻き起こすエネルギーの炸裂にフロアは今最高潮を迎えている。
 ダンスフロアから一段ブロックを積んだ上にDJブースは、金網に仕切られる形であり、それはまるで動物園の檻のように見える。DJブースのすぐ前の金網に登り、片手で柱を支えながら官能的に腰を振りながら踊るのはジュンだ。いつものように上半身は裸で、リズムに合わせて少し垂れ気味のジュンの乳房が揺れる。フラッシュライトに照らされてジュンの白い乳房が赤く光り、すぐに青く光る。酔っ払った男たちがジュンの真下で嬌声をあげて手を伸ばす。ジュンが半身をひねり振りかえった瞬間に、薄暗い壁際にもたれた俺を見つけて金網の上から手を振る。薄暗い店内の灯りでもジュンの頬が高潮しているのが分かった。ジュンが投げキッスを飛ばすと俺は微笑んでそれに応え、人差し指で拳銃の形を作りジュンを撃った。ジュンは片手で胸を押さえて笑い、やられたと叫ぶが大音響のリズムにかき消されて聞こえない。口の動きだけだ。
 熱狂の夜はまだ長い。  
 
 
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文字数 : 934
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