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三郎の記憶 kazunyanta 「敵機直上、急降下!」 かすれた見張りの声に、反射的に頭上を見上げると煤けた爆煙の遥か上空には芥子粒程の黒い点があり、逆落としに頭上目掛けて落っこちてくるのが分かった。 午後からの度重なる空襲は、艦から持てる戦闘力を奪い去り、乗員の疲労もまた限界点に達しつつある。 それでも数挺にまで減ってしまった機銃座から、上空に向かってバラバラと火の粉を吐き出すのだが、当事者である三郎の目から見てもそれらが有効に機能しているとは思えなかった。 やがて、甲高い轟音が上空を埋め尽くし、「ヴヴ」という羽音を立てながら幾重もの弧を描いて鉄の肉蝿が舞い降りてくる。 * 「父さん、どうです? 身体の具合はいいですか」 日が良かったのか、父の意識はしっかりとしているようだった。 「義男か。どうも最近は、寝ると兵隊の頃の夢ばかり見る。 あの時わしが乗っておった船に爆弾が命中してな、甲板におった仲間は皆、五体をもがれて宙を舞うのが見えた。 機銃の影に隠れとったわしは、命こそは助かったが、この通り右手を爆風にもがれてしもうた。 何もかも忘れてしまうというのに、よりによって思い出したくない記憶ばかりが鮮明になる。」 やがて、父はどこか遠くを見つめるようにしてこう呟く。 「義男、もげたわしの右手はな、握り飯を確りと掴んだままじゃったんじゃ。」 内臓疾患とアルツハイマー病に侵され、失いゆく記憶の中で父に最後まで残されたのは、右手を失った忌々しい出来事であった。 それは、死期が間近に迫る時、生きようともがく命の本能のように思えてならない。 私が最期を迎える時に、残された記憶とは一体どのようなものだろう。 願わくば、それが私と家族の平穏な日常であって欲しいと思うばかりなのである。 |
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Website : 週刊らっきー 文字数 : 763 |