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聖人と教祖 のぼりん@SSEA 聖人と教祖が道端で出会った。 それぞれがひとつの宗派を率いた宗教家である。誰もが互いに反発しあうものと思っていた。ところが牽制しあっていたのは最初だけである。いつの間にかお互いが相手の教義を認め合い、そして尊敬の言葉をかけ合った。 「あなたは、救世主だ。私はあなたのしもべになりたい」 「すばらしい。あなたこそ、現代の仏陀だ」 互いに対する宗教的感動は、ふたりの熱い思いをやむにやまれぬものにした。 「私は仏陀ではない。あなたが仏陀です」 「なにをおっしゃる。あなたこそ仏陀なのだ!」 その敬虔な譲り合いは熱を帯び、あたかも討論の様相であった。 突然、彼らを取り巻く集団がざわめき、その中から、一人のお巡りさんが飛び出してきた。彼は、ふたりの宗教家の中に割り込んで、両手を広げた。 「往来の真中で、ぶった、ぶたないと、大人げないぞ。どちらが先に手を出したのか知らないが、その続きは署で聞こう!」 聖人がお巡りさんの掴む手を振り解いて、穏やかに答えた。 「いや、この人が先に私のことを仏陀だといったのです。でも、それは間違いです。仏陀はこの人のほうです」 「いいえ違います」教祖も言葉を返した。 「仏陀はこの人です」 お巡りさんはうんざりしたような顔をした。 「わかった、先にぶったのはこっちだな。署までくるんだ」 「ま、待ってくださいよ」 聖人はいささか慌てた。 「仏陀はこの人のほうですよ」 「何いっているんですか。君が先じゃないか。先に仏陀といったのは。なら、先に行った方を連れて行ってください。私は忙しいので…」 「やってられませんな。あんたが素直に仏陀だと認めりゃよかったんだろ。言い返すほうが悪いよな」 もはや、お互いは穏やかではいられなかった。教祖も聖人も額に青筋を立てた。 二人はさらにいがみ合って、声を荒げた。 「ふん、あんたなんか、仏陀じゃない。」 「お前なんか、仏陀じゃねえよ!」 「そこまで言うなら、呪いの呪文を唱えてやる」 聖人が、両手をクロスしてへっぴり腰に構えたのを見て、教祖は片頬で笑ってすごんで見せた。 「俺の信者にゃ、組関係の奴もいるんだぜ」 収拾のつかなくなった現場で、間に立ったお巡りさんは、ついに拳銃を天上に構えて叫んだ。 「これ以上騒ぎを大きくすると、容赦しないぞ。オシャカになりたくなければ、二人とも手を挙げて、署に来るんだ」 騒ぎの原因が何かという事に、依然気づいていないようである。 |
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