第25回1000字小説バトル
 Entry21
 
近所の床屋さんにて
 
やみさき
 
 
 こんにちは、うん、いつものようにね。あ、そうか。もう夏だから、横は刈り上げてもらおうかな。前の方は目にかからないくらいに適当に切って、分け目は大ざっぱで。え、別に何も良いことはないよ。そんなに嬉しそうな顔をしているかな。うん。ぼくは床屋さんが大好きなのさ。小さい頃からね。
 床屋さんにいく楽しみ? 
 髪を切ってもらう他にも、いろいろあったよ。順番を待っている間も楽しめたし、ほら、雑誌とかスポーツ新聞がおいてあってさ、特に週刊誌のグラビヤ頁にはどきどきしたね。こっそりと女優の水着姿をのぞき込んで、ひとりで興奮してた。ああいう雑誌に載ってた漫画も結構エッチでさ、オッパイなんかモロだったでしょう。もう、罪悪感に苛まれながら、それでもしっかりと見てたね。そうそう、しっかりと目に焼き付いちゃってさ、その日はなにを見てもオッパイに見えたりして。あははは。
 こほん。もっち、そんなページばっかり見てたわけでもないよ。ちゃんと記事も読んだよ。ちょうどほら、宇宙での大爆発があったころさ、変な病気が流行り始めたんだよね。そうそう、読んだ読んだ。うん。結局あれは超新星っていうのかな。太陽の何万倍もある恒星が爆発したって言ってたね。それで、地球上に落ちる宇宙線が猛烈な放射能レベルになって、突然、ぱらぱらとみんなの髪の毛が抜け始めた。
 びっくりしたよ。男の人も女の人も、一年くらいでみーんなスキンヘッドになっちゃったんだもの。ほんと、大騒ぎだったよね。
 あのときには、床屋さんは商売上がったりになったんだけど、でも大したもんだね。すぐにこんなビジネスを思いつくなんてね。え? これって、床屋さんだけのアイデアじゃなくて、床屋さんと花屋さんのジョイントベンチャーだったの。ふーん。なるほどねえ。でもすごいよね。つるつる頭に人工毛根を植え付けて、水耕チューブを取り付ける。そいでもって、水耕ボンサイを植え付ける。ホント、楽しいよ。ちゃんと水をやって、リン酸トニックを擦り込んで、カリウム・リキッドで形を整えるんだ。しかも、太陽光にもあてないと白く脱色してしまうんだから、本格的。みんな色とりどりのボンサイスタイルで町中を歩き回ってるじゃない。
 ひと昔前にシャギーとかカラー髪染めとか流行ったらしいけど、比じゃないね。うん。大ヒットだよ。あ、どうもありがとう。除草シャンプーはいらないよ。外は酸性雨が降り出したみたいだから。

(おしまい)
 
 
Website : ポケットミステリー通信
文字数 : 1000
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