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P九〇〇〇開発史 羽那沖権八 「こ、これは!?」 若い技師は呆然と立ち尽くす。 目の前には、昨日起動試験に成功したアンドロイド『P九〇〇〇』があった。 正確には、P九〇〇〇だったものが。 「誰がこんな事しやがった!」 彼は上司に報告するのも忘れ、残骸を拾い集める。 惨憺たる有様だった。 表皮を覆っていた樹脂は剥がれ、カバーがこじ開けられ、ハーネスやチップが引っ張り出され、散らばっていた。 ギ……ギ…………。 僅かに動く指先のパーツのきしむ音だけが、研究室に響いていた。 「――P九〇〇〇は、サイバースペース上で形成された人間の遺伝子を成長させたシミュレーションを制御系に――」 主任技師がP九〇〇〇の残骸の前で、重役たちに説明をする。 「そんな事は知っている。問題は、誰がこれをやったか、だ」 白い髭の重役が口を挟む。 「産業スパイか、それともこの計画に反感を持つ宗教団体か。犯人をすぐに見つけるべきだろう!」 太った重役も、それに同調する。 「警察に報告してもいいんじゃいないかね」 車椅子に乗った重役がおずおずと付け加える。 「まあ待って下さい」 重役たちを、主任技師は制する。 「P九〇〇〇の視覚データが残っています。これを見れば『犯人』は、一目瞭然です」 彼が若い技師に目配せをすると、モニタにクリアな映像が表示された。 ――起動実験を喜ぶ技師や重役たちの姿。 「早送りして――ストップ」 モニタには、P九〇〇〇自身のアームが映っていた。アームが拡大されていく。何か、じっとアームを見つめていたらしい。 「ここからです」 ボディの表面を覆う樹脂の、僅かな、ほんの僅かな継ぎ目をP九〇〇〇のマニピュレーターの指先が、引っかき始めた。その行動は休まる事なく続き、ついには樹脂が剥がされ、下の金属部品に及び、アームだけでは飽きたらず、腹部、脚部、メンテナンスハッチを含めたありとあらゆる継ぎ目を引き剥がして行った。 「……なんなのだ、これは。ソフトウェアのバグかね?」 白い髭の重役はP九〇〇〇の残骸を薄気味悪そうに見る。 「ロボットが自殺など――」 「バグではありません」 主任技師は大きな溜息をついた。 「人間を模するという理念から考えれば、むしろ大成功でしょう」 「どういう事だそれは!?」 『察しが悪いなぁ』 ビデオの操作をしていた若い技師は自分の指を見る。 『自分の身体に、継ぎ目だぜ?』 爪の生え際に出来ていたささくれを、ぴっ、と引きちぎった。 |
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