第25回1000字小説バトル
 Entry25
 
完全なる世界
 
サトコフ
 
 
 蚊の持つあの独特の高音、不快な羽音で目を覚まし、畜生、人様の安眠を妨害しやがって、と苛立っていると蚊は左頬に着地。きい! と己の右手で己の左頬を強烈にピシャリ、叩くと同時に玄関のベルが鳴った。時計を見ると午後2時、窓外が異常に明るかった。

 おいっす、まだ寝てたの? ドアを開けるとそこにはNとKの姿があり、Nは缶ビールの入ったビニール袋を、Kは横長の箱をそれぞれ持っていた。
 何それ? と訊くのを待ってましたとばかりにK、これ? これはねえ、ボードゲーム。さっきNと玩具屋で買ってきたのよ。一緒にやろうと思ってさ。へへへ。
 ボードゲーム、と聞いて僕は人生ゲームとかモノポリーなんかを想像したのだけれど、それは『完全なる世界』というもので、「今日からあなたも創造主!」と宣伝文が血の色で書かれていた。巷じゃ最近、これがやばいらしいのよ。とKは言った。

 成程、モノポリーの世界版みたいな感じですか。とルールを大まかに把握したところで早速ゲーム開始。その前に乾杯。

 1時間後、世界は冷たかった。というのは全てKという卑劣な独裁者の所為で、南北のアメリカ大陸、及びヨーロッパ地域を支配下に置いたKは、圧倒的軍事力を背景に産業・貿易を独占、NはそのKの口車に完全に乗せられ、支配下であるアフリカ・西アジア・及びオセアニア地域にある厖大な地下資源を格安値でKに提供していたからであって、騙されるなN、Kのやつぁ、資源が尽きれば確実に君を捨てるぞ、といくら忠告しようと、だって発展したいんだもーん、で破滅の道をまっしぐら。
 日本、及びアジア・ロシア地域一帯を支配していた僕は、何とかKの野望を打ち砕かんと尽力するも、CIAの暗躍により中国・ロシアの関係に亀裂発生、いかん、このままでは、と焦り始めた矢先にアイヌ人が蜂起。むむ。Nも資源が枯渇し、あっさりボロ雑巾のように捨てられ貧困の中で緑の地球を訴え続ける緑の老人と化しており、というか、壊れており、もう駄目だ。と諦めかけたその瞬間、聞こえたのは天使の羽音。あの独特の高音。これだ。これしかない。

 蚊が飛んでるね、と前置き、密かに足先をボードの下に潜りこませて準備完了、立ち上がれ! ぶち壊せ! パチン!

 メチャクチャになったボードの横で、Nは無表情に立っていた。蚊、殺したよ。そう言って手を見せるNは少し恐く、呆然と見上げていると、左頬が、無性にかゆくなった。
 
 
Website : とんずらロケット
文字数 : 1000
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