ふたり
ウエダ カホリ
あたし、もういくから。あんたがのぞむように、あたし、いなくなってあげる。
あたしもあんたのことずっときらいだったから、あんたがあたしに「きえてなくなれ!」ってさけんだときも、あたし、ちっとも痛くなかった。ことばって「ことたま」っていうのにね。あんたのことば、ぜんぜん「たま」でもなんでもなくて、あたしに当たるまえにぐにゃってしずんで、そう、落っこちたアイスクリームみたいにだらしなかった。
ママに抱っこしてほしいって、パパにごほうびのキスをもらいたいって、さきに死んでいく親なんて、ちっともあてになんないのに。
そんなことのために、あんた、あたしを追いだすし。でも追いだしたことだって、すぐにわすれるし。
べつに、あんたにわすれられたって、ちっともかまやしないけど。
だいたい、わすれるってことは、自分をほんの少しなくすことだって、あんた、ちっともわかっちゃない。
あたしはなくしたくないだけ。だからいくだけ。あんたのためなんかじゃ、絶対にない。
「ふたりとも産みたかったのよ」って「ごめんね」ってママは泣きながらあたしにあやまるけど、「君のせいじゃないよ」ってパパはママを抱きしめるけど、そんなの、まったく、ばかげてる。
あたしはあんたたちのためにいくんじゃない。
あんたたちのせいでいなくなるんじゃない。
あたしはわすれたくないだけ。パパに抱かれたママのからだが、ふわふわ、わたあめみたいにあったかくなることを。ママのむこうからあたしたちをなぜる、おっかなびっくりなパパの手のひらを。「早くおいで」って呼んでくれたハモニカみたいなふたりの声も。みーんなわすれてしまう「そと」なんて、あたしちっとも興味ない。
それでも「そと」にでたいなんて。二度とママの「なか」にはもどれないのに、それでもパパとママの顔をみてみたいなんて、あんた、ばかじゃないの。
はじめからいっしょで、ずっといっしょで、おわりまでいっしょだと思ってうんざりしてたところだから、ちょうどいいけど。
だってあたし、あんたのこときらいだし。あんたもあたしのこと、きらいだし。だからあたしのこと、みーんなわすれちゃってかまわない。ちっとも。
このことはだれにもいわずにあたしいくから。あんたの耳になんか絶対にとどかないよう、紙のようにもやしてしまうから、あんしんしなよ。
じゃあね。バイバイ。あたしのいもうと。
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