第25回1000字小説バトル
 Entry27
 
ふたり
 
ウエダ カホリ
 
 
 あたし、もういくから。あんたがのぞむように、あたし、いなくなってあげる。
 あたしもあんたのことずっときらいだったから、あんたがあたしに「きえてなくなれ!」ってさけんだときも、あたし、ちっとも痛くなかった。ことばって「ことたま」っていうのにね。あんたのことば、ぜんぜん「たま」でもなんでもなくて、あたしに当たるまえにぐにゃってしずんで、そう、落っこちたアイスクリームみたいにだらしなかった。
 ママに抱っこしてほしいって、パパにごほうびのキスをもらいたいって、さきに死んでいく親なんて、ちっともあてになんないのに。
 そんなことのために、あんた、あたしを追いだすし。でも追いだしたことだって、すぐにわすれるし。
 べつに、あんたにわすれられたって、ちっともかまやしないけど。
 だいたい、わすれるってことは、自分をほんの少しなくすことだって、あんた、ちっともわかっちゃない。
 あたしはなくしたくないだけ。だからいくだけ。あんたのためなんかじゃ、絶対にない。
 「ふたりとも産みたかったのよ」って「ごめんね」ってママは泣きながらあたしにあやまるけど、「君のせいじゃないよ」ってパパはママを抱きしめるけど、そんなの、まったく、ばかげてる。
 あたしはあんたたちのためにいくんじゃない。
 あんたたちのせいでいなくなるんじゃない。
 あたしはわすれたくないだけ。パパに抱かれたママのからだが、ふわふわ、わたあめみたいにあったかくなることを。ママのむこうからあたしたちをなぜる、おっかなびっくりなパパの手のひらを。「早くおいで」って呼んでくれたハモニカみたいなふたりの声も。みーんなわすれてしまう「そと」なんて、あたしちっとも興味ない。

 それでも「そと」にでたいなんて。二度とママの「なか」にはもどれないのに、それでもパパとママの顔をみてみたいなんて、あんた、ばかじゃないの。
 はじめからいっしょで、ずっといっしょで、おわりまでいっしょだと思ってうんざりしてたところだから、ちょうどいいけど。
 だってあたし、あんたのこときらいだし。あんたもあたしのこと、きらいだし。だからあたしのこと、みーんなわすれちゃってかまわない。ちっとも。

 このことはだれにもいわずにあたしいくから。あんたの耳になんか絶対にとどかないよう、紙のようにもやしてしまうから、あんしんしなよ。

 じゃあね。バイバイ。あたしのいもうと。
 
 
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文字数 : 988
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