幻 〜self magic〜
加藤 正貴
それは幻だった。僕の永い永い、それこそ永久の刻を過ごしたかの様に感じられたそれこそ氷のような、まるで情熱の燃え上がる炎のような一つの片思いの物語は、何度も自問し、何度も自答したように、それは闇の中、真白な光の中にあっさりと消えていった。
嫌のものを見た、まるで、人類全てが嫌悪し、遠ざかりたく思うような汚物の全てを一度に全て見たような気分になった。天使のように考えていた女性の、悪魔のような姿、僕は決してそれをみたくはなかったし、そんな一面が彼女に存在するなんて、想像した事もなかった。
僕の前でその会話は続いた。もとよりただの片思い―――彼女は当然僕の気持ちなど知らない、だから(もしそれを知っていたとしても、その状況に変化が生まれたのかどうかは解からないが)僕の前で、その女性は僕じゃない男性と会話をし、弾むような、いや、それこそ踊るような言葉をその口から発し、今まで見た事のないような満面の笑みでそれに対していた。
嫉妬、その言葉で片付けてしまうのが一番正確なのかもしれない。僕と違うところで、その女性と、その男性の各々の刻が流れていることも、自然な事だといえた。僕の気持ちだけが、ただ不自然だった。
そのとき僕は、自分の事を正しいと思っていた、自分が清潔な存在なのだと間違った考えを抱いていた。眼前で行われている正常な行動が、とてつもなく不潔なものだと思えて、とても悔しかった、とても悲しかった。
どうしたらいいのかわからなかった、築きあげてきた自分の中での彼女の存在―幻―が、音もなく、ただ何もなかったようにその役割を終え、消え去ろうとしていた。
気が付けば光の消えた闇の中の道を一人ただ無茶苦茶に走っていた。疲れという概念などその場所には存在しなかった。幻と歩んだその道を、幻と立ったその場所を、幻と笑ったその言葉を、ただしらみつぶしに走り廻っていた。
しばらく経つと、自分の中で刻が逆流している事に気付いた。涙が流れていた、枯れたと思っていたそれは、一筋の線となって僕の冷たくなった頬を伝った。
もうそこには何も無かった、全ては幻だったんだとそのとき気付いた。逆流していく刻の中で、自分に掛けられていた恋という名の強固な魔法が、その力を失って、解けていくのを感じた。
「幻よ、バイバイ!!」
気が付くと僕は大声でそう叫んでいた。眼前には広大な海、空には満天の星が輝いていた―――。
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