第25回1000字小説バトル
 Entry30
 
猿と龍、既定の宿命
 
由述ヨシノ
 
 
 志保子と俺は、今日も二人でインターネット。
 マウスを握る俺の手に、期待とあきらめ入り混じる。
 ランダムリンクをクリックすれば、色鮮やかなページが開き、最期にこんなメッセージ。
「いらっしゃいませ、あなたは17999人目のお客様です」
 志保子は手を叩き、「次があるさ」と大笑い。
 俺は悔しさあまって唇を噛み、上目遣いで志保子を睨む。
 哀れ、これが俺の人生。俺はいわゆる「足りない」男。

 足りなさ振りは絵に描いたよう。テストを受ければ99点。二単位足りずに留年確定。チョコエッグを集めればダブリばかりであと一つが出ず、最期のひと押しがどうしても足りない。そもそも産まれた時から足りなくて、2499グラム、未熟児での御誕生、保育器もあいにくの満席であと一人分が無かったというのだから、これはもう笑うしかない。
 こんな俺の座右の銘、
 画龍点睛。
 足りぬからこそ、この世の存在。
 足りてしまえば、天に昇るのみ。
 ことあるごとにこの四字を呟けば、志保子は冷然と、
「そんなの言い訳じゃないのさ」
 自分でもわかっている。座右の銘は逃げ口上。いつも足りない自分に向けた、責任転嫁の言い逃れ。

 どうしてこんな足りない男に連れ添うのかと、理由を志保子に問うてみる。
「絶妙の足りなさが、母性本能をくすぐるのよねぇ」としみじみ語り、「いつかは足りるよ、明日があるさ」と皮肉げに笑う。
 そして志保子は俺を抱く。
 ひとつ足りない、届かない。
 足りない俺は志保子を抱く勇気にも欠けている。
 されるがままの情事が済めば、
「アンタはオスとしてもイマイチだねぇ」
 次いで煙草をぷかりとふかし、
「今度こそ満足させて頂戴よ」
 しかし、それは口先ばかり。彼女のこころうちには、画龍点睛、その言葉に逃げる俺が居る。彼女の中で俺は永遠足りない男。龍を夢見る、見世物小屋の只の猿。
 常は泣き寝入りの俺も、この日はとうとう耐え兼ねた。
「今に見ていろ、足りてやる」
 怒りに任せてぶちまけた。
 志保子はぴくりも動じず、
「無理よ、無理」
「いや、足りる。眼のない龍に瞳を打って、天の極みへ昇ってやる」
 ひとたび声にしてみれば、なんだか体の軽くなったよう。今ならなんでも出来そうな、やった傍から足りそうな、そんな勇気が湧いて出る。
 呆れる志保子を張り倒し、一糸まとわず、夜中の街へと飛び出した。
 湧きあがる想いそのままに、走り叫ぶ。
 今に見ていろ、足りてやる!
 
 
Website : 見えない猿は果たして猿か?
文字数 : 999
目次にもどる