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壊れた女 芥川かげろう 真っ黒なサングラスの冷殺し屋のような大男が、一軒家のカギをこじ開けて侵入した。周囲には他に建物も生物の気配もない。中の床は血だらけ。固まった古い血と新しい血が入り乱れ、家中に散らばっている。 20才ぐらいのランジェリー姿の女がリビングのイスに細長い足を組んで腰掛け、ナイフで左の手のひらに数本の細長い傷を付けている。細身の女の体中の白い肌には無数の古い傷跡と新しい傷。床にポタポタと赤い雫が滴っている。 大柄な男が目の前に立っても女は顔色ひとつ変えない。 「何をしている?」 震える声で男が問う。 「あんたの方こそ」 鋭利な声で言い返す女。 「か……金を出せ!」 「なぁんだ、あんたもあたしと一緒じゃん」 女は妖しく微笑む。 「え……?」 「強盗なんかして、現実から逃げてるだけでしょう。あたしもいろんな嫌なこと忘れたいから、こうして血を流してるの」 「これ、前の彼からもらったコップ。あたしを捨てた許せない奴。だから壊しちゃえー」 女は立ち上がり目の前にあったコップを円い小さなテーブルに投げつけた。散らばったいくつもの破片を右手で鷲づかみにし、握り締める。黒いテーブル上に拳から鮮血がダラダラと流れ落ち、赤黒い水溜まりを形成する 男は悲鳴をあげそうになる。 「お金ならあげるよ、ほら」 女は半分赤く染まった札束を差し出す。300万はある。 「たたた助けてくれー!」 男は叫び逃げ出す。 「うっ……!」 1kmほど走った頃、男は突然腹を押さえ苦しみ出す。 こぉぉん……。高く長い音が閉め切った部屋中に反響する。白い肌の女はかわいいクマのぬいぐるみを壁におさえつけ自分の左手ごとそれに木槌で大きな杭を打ち付けている。しなやかな左手から流れ落ちる血は女の素足の足元を真っ赤に染めてゆく。 「ふふふ……。ついに絶頂よ……流血の呪い」 そのとき男が失いかけた意識の中で、さっきの女がぬいぐるみに杭を打つ姿がぼんやりと浮かぶ。なぜだ……?なぜあの女が俺を……? 「あの世で仲良くデートしようね」 女は自分を捨てた男へのメッセージを無邪気なクマに向かって優しくささやいた。 「あれ……?違う。この人さっきの強盗さんだ」 宙を舞っていた木槌が止まった。 女は昔の彼氏とあの大男をいつのまにか混同していたことに気づいた。この二人は兄弟のようにそっくりだった。女は昔失った宝物を見つけたような嬉しい気分になった。 「今度こそ私のモノにしてみせる」 |
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