第25回1000字小説バトル
 Entry5
 
檻の中
 
渋澤 コウ
 
 
冷たい壁…ズッシリと佇む鉄の檻…
けして穏やかな光が入ることのない、罪深き者たちへの存在が許された空間…

僕は目を開けている。見えるのは鉄の檻…冷たい壁…そして檻の向こうに見える仲間たち…    …仲間?…
もはやそれはどうでもいいこと。けして出られることは無いから思い持っても必要が無い。いっそのこと捨ててしまおう。
僕は目を開けている。脱力感とむなしさを抱えて…
自分の中にあった溢れるほどの自信。けして誰からの意見を待つのではなく、自らを信じ、自分の中にある大きさを更に広げていった。
だが、それもここでは無意味なもの。また一つ、捨ててしまおう。僕らはけして出られることの無い場所にいるのだから…。
僕は目を開けている。思い出が走馬灯のように頭を巡る…。
母のぬくもりや友人との出会い…。唯一愛した一人の女…。自分の今に至るまでの人生。またひとつ、いらないものが消えていく…。
…必要ないのにこの失望感はなんだろう。冷たい地面には熱い雫がポタポタと、男の瞳から溢れ出る…。顔を醜いほどに歪ませながら…。一つ、消えていった。

僕は目を開けている。誰かに助けを求めた。 …みんな同じだった。
もはやこの声も必要がないのか。…僕の声はいつのまにか消えていた…。

周りは相変わらず貪欲と無責任で染まりかえっている。泣き声、うめく者、檻にしがみつく者。何をしたいのか?やはり助けを求めているのだろうか?
この罪人しか住まわない場所で、誰の助けを求めているのか?…仲間?
助けを求めるときだけ?虫がよすぎる。…僕も、同じか。

僕は目を開けている。お父さん、お母さん、僕は五体満足で生まれ育ちました。だけどもう必要ありません。ごめんなさい。
一つ、僕の中から消えていく…。感覚が無くなってきた。
今の僕はこの世に在るだけの存在なのかもしれない。たくさんの自分の柱が消えていった。こうしてしばらくいたい。何も考えずに…。
僕は目を開けている。周りは相変わらず騒がしい。目に見える全てが嫌になる。
暗い空間。頼りは檻の外にあるチカチカと今にも消えそうな白熱灯。その薄暗さが、罪人たちの表情を更に不気味に見せる。醜いものだ。
…僕はどう映っているのだろうか?全てをまだ見ていたい。

僕は目を閉じている。
男はずっと目を開けない。…目覚めることはもう無い。
 
 
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文字数 : 996
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