第25回1000字小説バトル
 Entry9
 
初恋
 
柴田 綾乃
 
 
  どんなに不幸な恋か、はじめから分かっている
  それでも、やっぱり大好きだと気づいた

  ただ思ってるだけなんて・・・私を知って欲しい、少しでも
  カバンに入れた秘密のプレゼント、側において

 アキラが、一生懸命にノートに書いているのは、黒板の因数分解でも、
きどった公式でもなく、堪らずわきあがってくる欲求と行き場のない想いだ。
 県で1.2の進学校に”間違って”はいってしまったようなアキラにとって、授業中の教師の声はひどく耳障りだった。オヤジの耳につくその声は、聞かない様にしていても、耳を突き刺してくる。心とは裏腹な従順な脳はガンガンしてくる。
 目をそらし、窓の外に行き場を探す。気をそらして、自分の言葉に耳をかたむけはじめる。自分の文字をならべることだけが、今のアキラの生きてる証だった。

  数えてつないだ
  思い出のダイアモンド
  今はひとつずつ 朝もやの街へ・・・なげる!!
  
  せつない恋だね
  幸せになれない
  ボンネットに乗せた夢を どこに運ぶの?

  理想は遠くて ゆがんじゃうよ
  ”その時”がくるまで、なんて
  待ちきれない

  hold me tight もっと
  うれしくて 悲しくて くやしくて せつなくて・・・

 起きているのに、夢を見ているような感覚だった。
どうしようもなかった。それくらいに、苦しかったから。
恋の痛みなのか、抑圧された感覚なのか、それすら分からなかった。
今は只、恋だと思おうとしていた。思うことにした。
現に隣のクラスの男子の事が気になったし、好きと思ったから、そう思うのに後ろめたさは伴わない。
 どこか冷めたようなアキラだったが、だから余計に恋には正直で暴れ出す気持ちを持て余していた。

「可愛いぃーアキラ。最近きれーになったじゃん?!うまくいくんじゃない?!」
と、友達は無邪気にも無責任に、そう笑った。その微笑みに、アキラは上手に微笑み返しながら言った。
「言えないよ。無理・・・。」
じゃあねと、小さく手を振って、気づかれない様、ため息を空に吐き出した。

初恋は、思い込みと見境のない無邪気さだ。
不思議ね・・・緑の若葉が輝いていた。
花の香りがした。
アスファルトに照り返す紫外線の暑さが陽炎になった。
その光は夕焼けになり、雲を多くした。
初恋の淡いピンクの頬と裏腹に、いつか出た月がアキラの影を浮かばせていた。

  いつか思い出す日がくるのだろうか・・・。
 
 
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文字数 : 995
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