第36回1000字小説バトル Entry27
これは報いだ。
僕があの子の光を奪った報いなのだ。
「右がフライな。左がメシ。メシの斜め右上が味噌汁」
「サンキュー」
「箸はトレイの手前にあるから」
「悪いな、いたれりつくせりで」
「おう、感謝しろ」
――こんな時、史浩が友達で良かったと心から思う。
昼下がりの学食。
いつも通り、四方八方で賑やかな学生達の声が聞こえていた。
「じきに、俺の彼女が友達連れてくるから」
「は?」
「紹介してやるよ」
ああ、そういうことか。おせっかいめ。
「いいよ、別に」
「お前、今俺のことおせっかいとか思ったろ?」
「うん」
僕は黙ってご飯を口に運んでいた。
「その子、三年前まで目が見えなかったって」
黒い夢。
重ねて見る悪夢。
何度も何度も繰り返し語られる僕の咎。
悪夢でも見慣れてしまった頃、僕は光を失った。
「どうよ?最近、彼女とは?」
からかうような調子で史浩が聞く。僕はわざと笑顔満面で答えた。
「史浩……、俺、お前と友達でほんとに良かったわ」
言ってらあ、と史浩は笑っていた。
今までに聞いたこともないような美しい声だった。
紡がれる言葉のひとつひとつに彼女の細やかな気配りが感じられる。
彼女は普通の男といるように僕に接するのだ。
けれどせっかく取り戻した光を、どうして僕になど使っているのだろう。
携帯の番号を教えると言って、僕の携帯に自分の番号を入力する彼女。
短縮の三番に入れたからと明るい声で笑う彼女。
叶わないとわかっているのに、僕は彼女の姿が見たくてたまらない。
君の姿を見たいから、手に触れてもいいかと思い切って聞いた。
彼女は直に僕の手を握ってくれた。
僕はそれを握り返す。
細くてたおやかな愛しい指先だった。とても暖かだった。
懐かしいような、そんな気さえした。
それから僕達は、会って話をする時はお互いの手に触れていた。
彼女が原因不明の失明は怖くはないかと尋ねるので怖くはないと僕は答えた。
むしろ、これは僕に与えられた当然の報いなのだから。
彼女の前で僕は幼い記憶を思い出す。
退院と同時に転校してしまったあの子。
できるならもう一度会って、君がどんなに辛かったかやっとわかったと告げたい。
ふと、僕の手に雫が零れた。
触れていた彼女の手は震えていた。
どうして泣くのかと聞いても、彼女はすすり泣きを続けるだけだった。
不謹慎にも。
不謹慎にも僕はその時、彼女はどんなに美しく泣いているのか見たかった。
叶わないことなのに彼女の表情が見たくてたまらなかった。
不謹慎にも。