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第37回1000字小説バトル Entry45

ドアを壊す

「よっしゃー、いくぜ!」
炎天下、工房の裏側で壁に斜に立て掛けた半壊状態のドアをぼこぼこに壊そうと、ジャンプ一番、とび蹴りをくらわしたら、すべって、こけた。

 僕はイベントなんかで使うセットを作る施行会社で働いている。儲かってるかどうかは別としてきちんとした考え方をしている会社は使い終わったセットを再利用するところもあるんだけど、大抵の会社は同じセットを二度も使えないと思ってるのか、保管場所がないのか、ぶっ壊して廃棄処分にしてしまう。そういう廃材を引き取るのもうちの仕事の一環だし、壊せば次の仕事で新しい注文をしてくれる。
 
 僕の仕事は営業して仕事をとり、変更があれば値段交渉をしながら注文を聞き、イベントが終わればちょっとした後始末をする。僕がそうしたことをしているうちに唯一同期で会社に残っているたけちゃんは何人かの部下を使って材料を掻き集めセットを作り、変更があると「またかよ、たのむよー」といいながらも必ず上手く仕上げてくれて、イベントが終われば廃材を使えるものと使えないものに分けて使えないものだけさらに小さくぶっ壊して処理した。

 むかしはこんなに明確な仕事の区別はなくて一緒に営業で走りまくってたり、廃材を壊してたりしてた。会社自体の危機も何度かあった。でもやっと会社は軌道に乗って、僕たちの人生もいつの間にか軌道に乗った。僕はつい最近ずっと好きだった女性と付き合い始めた。たけちゃんは来月パパになる。ちょっと前が遠い夢のように思える。

「やめときって、怪我するぞ」
使い物にならなくなったドアを壊すのを強引にやらせてくれって頼んだのは僕だ。たけちゃんは同じ作業着を着た部下と少し心配そうに見ている。
「大丈夫だって。ちょっと前まで一緒にやってたじゃん」
そういって僕はワイシャツの袖をまくし上げた。

 たけちゃんと部下が笑っている。僕も思わず笑いが出た。本当いうと滑ってこけたというより、ドアに跳ね返されたって感じだ。
「だいじょうぶかー?」
たけちゃんが顔は笑ったまま手を差し出してくれた。本当にちょっとだけ悩んでみたけど、素直に手をとった。その後ろでたけちゃんの部下達がのこぎりやバールでドアをばらし始めた。
「どうしたんだ?なんかあった?」
少し心配そうな顔になってたけちゃんが聞いてきた。
「いやいや、そんなんじゃないんだけど、ほら」
四日後にまた一つ歳を取る僕はそういって自分の頬をつねってみせた。

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