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1000字小説バトル

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1000字小説バトル
第69回バトル結果

おめでとうございます!

今月のチャンピオン作品は、ウーティスさんの作品 entry9、
アナトー・シキソさん『ガルボ・ナッス』の2作品と決まりました。

投票結果
得票数 
1
タコ入道のお気に入り
榎生 東
2
水泳嫌い
のぼりん
3
下手っぴ寺山修司ふう
ゆふな さき
4
弱虫浩太
浅田 壱奈
5
カレーの匂い
霜月 剣
6
ぼんやり
めだか
7
ながしろばんり
3
8
金属バットとボールペン
小笠原寿夫
9
ウーティスさん
6
10
相川拓也
1
11
別れの曲
鬱宮時間
12
クロネコ
朧冶こうじ
13
束縛
石井伸太郎
14
哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー
たかぼ
15
ナンバー9
べっち
16
ごんぱち
3
17
橘内 潤
1
18
冷縁月
早透 光
19
アナトー・シキソ
6
20
越冬こあら
2
21
本物志向
日向さち
22
そらのいろ
隠葉くぬぎ
23
影山影司
1
24
変われない春
空人
25
るるるぶ☆どっぐちゃん
1
26
春風とスヌーピー
伊勢 湊

感想票をお送りいただいた皆様、ありがとうございました。

「私の投票がない!」「内容が違うような?」……掲載もれ、ミスなどがございましたら、QBOOKSインフォデスクのページよりご連絡ください。

推薦作品と感想

■Entry9
ウーティスさん

感想:
すっきりとしていて綺麗でした。
オチの部分はなくても良かったかなァとも思いましたが、これで一つの形なのでしょう。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
 エントリ09、鳥野新さんの『手』に投票します。
 一見ホラーっぽいのでビビリましたが、とても優しい物語です。
 最近の和製ホラーは怖いばかりで救いなしだが、これは昔の、人情モノの怪談のよう。
 いいですね。やっぱり日本の怪談はこうじゃないと。

 次点で14『哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー(たかぼさん)』と、26『春風とスヌーピー(伊勢湊さん)』

『哀しみの~』はどこかが少し怖くて、シュールだ。
 ラストは綺麗にまとまっているのだが、冒頭が説明的で、読み飛ばしたくなった。
 細かいことを言うと、時間帯が良く分からない。それに風呂上りの2階の台所でどうして手元にアラレがあるのかも疑問。アパートなんでしょうか?
 逆に言うと、この辺りの描写は余計なのかも。

『春風と~』は、いいですね。幸せ爆裂です(笑)
(遅まきながら、ご結婚おめでとうございました)
 ただ納得できなかったのが、ガスレンジ近くにカーテンなんていかにもな可燃物は絶対に置きませんよ、普通は(←所帯じみたツッコミ)
(by千早丸)
投票者: その他のQBOOKS参加作者

感想:
全感想に挑んだのはいいものの、下書きの途中で息切れしてしまいました。
しかも全部は書けなくて、書けなかった作品に申し訳ないので、とりあえず投票だけします。

今月はこれですね。うん。なんか「世にも奇妙な物語」みたいで面白い。
あとは、ながちろさん、ごんぱちさん。んまいです。
えー、全感想(またはあら探し)の下書きは、「4月度バトル感想下書き」でググってみてください。でも怒らないでください。
(霜)
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
「相関」「変われない春」あたりも好みだけど、話として一番楽しめたのは本作。
手袋が動いた、という展開――想定の範囲内という奴なのかもしれないけれど、物語性があって心地好い終わり方だと思う。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
いい話になりすぎず、怖い話になりすぎず、絶妙なバランスのまま1000字に収まっていて、感動しました。針金で右手を作るところが特に好きです。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
うまく書かれていると思う。ストーリーがすんなり気持ちに入ってくる感じがした。しかし、かなり削ったのだろう。心象風景を描く部分が足りない気がする。文字の縛りなくして、読みたいと思った。
投票者: このバトルへの参加作者

■Entry19
ガルボ・ナッス
アナトー・シキソさん

感想:
ガルボ・ナッスの正体が最後まで分からないところが気に入りました。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
 面白くない筈だ。詰まらない筈だ。通常の理論じゃ、こんなもの駄作な筈だ。
 だけど、面白い。喉が詰まりそうな位面白い。理論の範疇外。言葉の合間から染み出す、独特の空気に酔わされる。
 アナトー氏は本気で、凄いと思う。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
[相関」すごく良かった、雰囲気がちょっとレトロで。最後の一人称が「わたし」のところが僕になっていたので、残念ながら投票を止めた。「わたし」の場合は妹に寄せる思いが嫉妬や愛情や同性のなにやらどろどろしたものを感じさせるのに、「僕」では今度は少しエロティックなものを感じさせてぜんぜん違う意味合いの話になってしまうから。最後のこの一人称で「あれ」と思った時点でなんだか作品世界から心が抜け出てしまった。残念。
「わたし」のときは、萩尾望都の名作「半神」のイメージがあった。すごく良かったのに、つくづく残念。

「めなし」うまい。軽妙、洒脱。さすがだ。でも投票行動に突き動かす何かには少し弱い。

「ガルボ・ナッス」王国と出てきた時点でイメージがガラガラと崩れたけどそれ以外は完璧好み。今回はこれかなあ。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
 うわ、駄洒落のゴリ押しだ、いや違う、そもそも名前なんだから駄洒落でもなんでもない!
 なすばなる(何を言っているのか)。

 後は『春風とスヌーピー』だが、これは楽屋オチ的なんだよなー。
 一人称過ぎます。作者=主人公過ぎますって。
 面白いけど。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
第69回1000字小説バトル

えー。

わかる範囲で、なにか書こう思ったので……。
03 下手っぴ寺山修司ふう ゆふな さき
 寺山修司という脚本家が、女の人のこういう感じに興味をもつとは
 思っていませんでした。そういう意味で、変化した感じは受けます。
 「天然だね」といわれた所で、%quot;一番伝えたいこと%quot;を%quot;奇妙に折れ曲
 が%quot;らせてみせると、良くわかるようになるのかなと。どう思われます?
04 弱虫浩太 浅田 壱奈
 %quot;した%quot;となっているところを%quot;する%quot;に変えて、手直しすると狙いが
 読みやすくなり、最後に違う結末をつけてみたくなれば儲けもの、
 というのは? どうでしょうか。
08 金属バットとボールペン 小笠原寿夫
 ペンのほうが強い社会がいい社会だと思っていますから、
 どことなく、情けないボールペンだなと思いました。
 まだこれなら金属バットの方がましかなあ。
09 手 鳥野 新
 雰囲気はこうなのだろうと思います。カメラもないのに、その場で
 こういった受け止め方をするだろうか、経験がないのでわかりませんが、
 そこだけは違うと感じました。そうするには、中篇ぐらいで読みたいと。
11 別れの曲 鬱宮時間
 %quot; わ、わかってたに決まってるだろ。%quot;ですよ。
 つい、私はいつもこんな感じが口から出てしまいます。
 レコードで聞くエチュードは綺麗な曲ですよね。
13 束縛 石井伸太郎
 %quot;札幌の彼女に、渋谷東急地下食品売り場で愛を叫ぶ%quot;。
 なぜか、作品から受けた印象はそう感じました。
 %quot; だけど・・・。%quot;までと、それからのところを逆にすると、
 いい感じかな。これは僭越ですね。
19 ガルボ・ナッス アナトー・シキソ
 文体はともかく。面白しろかった。こういう茄子なら食べてみたいと。
20 敗北家族 越冬こあら
 %quot;自己評価が甘い父さんが……向かうところ敵無しの状態だった。%quot;
 というところが好きですね。私小説のフリをしていない所がいいです。
 そりゃ離散ぐらいするだろうなと。
22 そらのいろ 隠葉くぬぎ
 唐突なので、よくわからなかったのですが、%quot;わたし、ちゃんと言ったよ%quot;
 というのは、どこかの地方の言葉
 なんでしょうか。
25 ラスト るるるぶ☆どっぐちゃん
 ラストというのは、さようならを言えばいいのでしょうか。
 いつもの感じですね。といっても、つき合いなどないので、
 失礼に聞こえたらすみません。
(めだか)
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
ガルボ・ナッスを称える歌を是非作りたいです。
投票者: その他のQBOOKS参加作者

■Entry7
相関
ながしろばんりさん

感想:
普段の作風とは違ったつくりであるが雰囲気作りの巧さに一票。
投票者: 純粋読者

感想:
 一行一行読むごとに頭の中にすーっと情景が浮かび上がってくるから、短い文章に詰め込まれた多くの意味を感じました。わかりやすく、かつ深く書かれた情景描写や言い回しがすばらしいです。語り口調も独特のものでそれだけで雰囲気を出しています。当然のことを当たり前のように書くテクニックと言いますか、基礎がよくできているのを感じました。勉強になります。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
 淡々とした静かな語り口が、夜の公園の、ブランコの音しかしない情景と相まって、読んでいて何とも気持ちよくさせてくれました。非日常的な日常とでもいえるような、愛らしいエピソード。

次点「そしてカッパ居なくナッパ」影山影司さん
 「ばしゃり」という音に、始めのうち笑えるのですが、だんだん笑えなくなって恐ろしくなる、という締め方が上手い。オチに至るまでのアホっぽさも、効いているように思いました。
(相川拓也)
投票者: このバトルへの参加作者

■Entry16
めなし
ごんぱちさん

感想:
「相関」ながしろばんり
江戸川乱歩とかあの辺の時代のヒトの文章みたいで雰囲気がいいよなあ。
けど、最後の一行で語り手が「わたし」から「僕」になってる理由が分からん。
違うヒトなのか? それとも単なるミスか?

「めなし」ごんぱち
いやあ、ベタベタの落語調。いいねえ。
でも四谷ってヤツわりと出てくるけど、いったい何時代の人間なんだ?

「冷縁月」早透 光
昨日の居酒屋で、12歳の時に一度会ったきりの父親と思いかけず再会したのに、父親の方は成長した娘に気付かないし、主人公も自分では言い出せない、そのもどかしさ、切なさのようなものを書いた作品。
若干とっ散らかってるけど、これはちゃんと書けてる。モチーフの好き嫌いは別にしてちゃんと書けてる。

「敗北家族」越冬こあら
相変わらずの安定感だなあ。この安定感はもう完全にプロの領域でしょう。
なんか、大昔に糸井重里が書いた「家族解散」とかなんとか、そういう題の小説を思い出した。内容は殆どわすれたけど、なんか、普通の家族が、こう、あんまり普通じゃない状態になって、最後にお父さんが「家族解散!」とか宣言して終るヤツだったような気がする。吉田戦車が表紙とか描いてた。まあ、関係ないんだけど。
越冬こあらの小説に出てくる家族は、メンバーみんなノリがいい。ノリがいいって言うのは、いつも馬鹿げた行動に出たりする親父に、他のみんなが調子を合わせてくれるって意味だ。家族が、親父に対して寛容で、暖かい。これって、家族が出てくるこあら作品の主調音のような気がする。まあ、今思い付いたんだけど。
けど「バイ」とら「タバ」とか、全然意味が分からん。「バイ」は売春のことか? じゃ、「タバ」は?


「ラスト」るるるぶ☆どっぐちゃん
勘ぐればいくらでも勘ぐれる、妙に寓話的な話。みどりの怪獣はなんなのか、あおい怪獣は物語のなかだけじゃないのか? 黄色い怪獣はなぜ格好いいのか? でも勘ぐらない。そんなことはどうでもいいからだ。肝心なのは、まんこ舐めてもらったり、けつの穴にちんぽつっこまれそうになってる、先生と呼ばれてる「私」のこのだるーいセックスが、現実なのか、それとも単なる幻覚(妄想)なのかわからないところで、描かれてる点だ。この作品で、どうしても外せないのは、最後に「私」が薬を飲むクダリだ。このクダリが、それまでのやりとりに意味を与えている。逆に言えば、薬のくだりさえ書けてれば、それまでのことは何を書いたっていい。午後2時半に太陽に焼かれながらみる寝汗にまみれただるい夢のようなものなら、何を書いたってイイ。だからこれは、好きに書いて、最後にラベルを貼って仕上げたような作品だ。というふうに俺は読んだ。作者がどういうつもりで書いてようが知ったこっちゃない。俺はそう読んだんだから仕方がない(丹波哲郎風)。

「春風とスヌーピー」伊勢 湊
この話は、夜中にゆーっくりと「僕」に近付いてくるぬいぐるみのスヌーピーを想像すると面白い。
それだけが面白い。というか、それだけが面白くてとても気に入ってる。

今回は作品数多かったのに、こうやって全部読んでみると、いわゆる常連しか名前が残ってないや。
本当はながしろばんりさんの 「相関」に入れようと思ってたんだけど(雰囲気がいいんだよなあ。文章のかもし出す雰囲気がさあ)、最後の「僕」が気になってやめた。単に俺が読めてないのか、作者のミスなのか分からんけど、まあ、仕方ないや。 今回は、こむずかしく考えるのはやめて、先生(ごんぱちさん)の落語(「めなし」)で。

(アナトー)
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
落語だ。まったく落語じゃないか。こんなの反則だ!
おもろすぎ、引込まれるっちゅうねん、ったくよ。
もっぺんこんなの書いたらタダじゃすまねーからな、おぼえてやがれっ!
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
会話の使い方にパワーが感じられた、ということで1票。
話の大きさとかも好みだった。
あと、今回、作品はかなり良いのに誤字があって残念、という作品が目立って残念。
(日向さち)
投票者: このバトルへの参加作者

■Entry20
敗北家族
越冬こあらさん

感想:
第69回1000字全感想

01 タコ入道のお気に入り(榎生 東さん)
長編の一部分らしく、前後を読んでいかなければ全体の流れが理解できないのですが、この部分だけを取ってみても、経済界の老獪たちの腹のさぐり合いのような、独特の会話文が面白いですね。如何せん1000字小説という趣旨とは異なるように思います。

02 水泳嫌い(のぼりんさん)
アイデアは珍しいものではありませんが書き方が手慣れていて小気味良くまとまっていると思います。前半2カ所の誤字は気になります(意味が違ってしまいますから)。

03 下手っぴ寺山修司ふう(ゆふな さきさん)
自分は何者であるのか。自分にはどんな価値があるのか。人間はただ生きて行くだけでは満たされない高等な生物故。食べて寝て排泄して死んで行くだけでは満たされない存在故。ふと気づいたときには誰もがこの女性のいた舞台に立っています。ただしこの題名はいただけません。

04 弱虫浩太(浅田 壱奈さん)
空想的ではないし現実的でもありません。幼稚園児ならこのようなストーリーにはならないでしょう。犬に近づくにしても、自らに勇気を示すというような高尚な動機ではなく、大人の目から見て何かもっと突拍子もない、無謀な動機が欲しいですね。そして結果的に意外にも勇気を得てしまう、というような。

05 カレーの匂い(霜月 剣さん)
マイルドな不条理性がよいです。ただマイルドなカレーがそうであるようにややもの足りません。前を歩いていた子供が紛れ込んだにしても、バスに百人は乗れないだろうし(そこに不条理を見いだすのも苦しい)バスジャックってのがそもそもちょっと野暮ったい。そういった野暮ったさもマイルドな味付けの一つなのでしょうが。

06 ぼんやり(めだかさん)
方言としての「ぼんやり」という言葉に関する夫婦の会話なのでしょうが、何が書かれているのかほとんど理解できませんでした。はじめに落語の話が挿入される理由、会話文の間に置かれる台詞と会話との区別、段落が下がる部分とそうでない部分の違いなども分かりにくさを増長しているようです。

07 相関(ながしろばんりさん)
巧みな比喩表現が見事です。曰く、鉄条網が悪霊になる、咽の奥で息をするような金属の軋む音、十六夜月時計の振り子、半径三メートルの暴風、老いを理由としたぶらんこの悲鳴。一つずつが詩といっても良いでしょう。ただ終わり方が私には消化不良でした。

08 金属バットとボールペン(小笠原寿夫さん)
学生の頃の昔話を聞いた、かのような印象をもたされる話でした。そういう出来事もときどきあるよね、といった程度の印象で、血の付いた手の記憶、犯人が知人であること、犯行に同行させられたこと、不良が優等生だったことなど、当事者である主人公にとっては衝撃的かもしれないことも、私には特段の感慨はありませんでした。

09 手(鳥野 新さん)
先が読めない展開でよかったです。無理に涙を誘うこともなく、しっとりした優しさがあります。

10 殺人者の夢(相川拓也さん)
最後になるほどと唸りました。ボタンを押す者の苦悩にも感情移入できました。

11 別れの曲(鬱宮時間さん)
あえて括弧で括らない会話文が抑えた色調の心象風景に適合しています。ヨーロッパのモノクロ恋愛映画のような雰囲気で。ただ別れを切り出した男が、女の動揺を誘うことに失敗したため、あっさり前言を撤回するというのはいかにも面白味に欠ける話です。

12 クロネコ(朧冶こうじさん)
てっきり語り手も、窓から黒猫を眺めている飼い猫だと思って読んでいました。黒猫が人間ではなく猫であるというのははじめから分かりますから、それがオチでは感慨がありません。語り手が猫ではなく人間であるなら、なぜ黒猫を人間と見間違えたのか、そこのところに興味が湧きます。

13 束縛(石井伸太郎さん)
ラストで明らかになる生まれつきの足の不自由さが小説の中の事実だとすれば、彼が両足を自由にしてくれない云々という前半の記述は矛盾したものになります。当然読者は書かれていることしか情報が得られないのですから、だまされることを楽しめるのですが、この話の持って行き方の場合にはちょっと無理があるように思います。

14 拙作です。ちなみにダンクレオステウスについてはここなどに、
http://big_game.at.infoseek.co.jp/fishery/dunkleosteus.html

15 ナンバー9(べっちさん)
校正した方がよい文章が何カ所かあります。せっかく1000字小説部門ですし、推敲を繰り返せば、もう少し1000字に近づけることもできたのではないでしょうか。一旦書き上げたものを、時間を置いて、気持ちを切り替えて何度も読み直すなどの方法で、他人の視点で読むように努力すること(私自身なかなか困難ですが)は有用なことだと思います。

16 めなし(ごんぱちさん)
いやぁ、よく出来た話ですね。出来すぎですね。定番の落語のようですね。感服いたしました。

17 『母子』(橘内 潤さん)
先の読めない展開で驚かされました。子供を何よりも愛し、それ故私物のように扱ってしまう、人間の親というそもそも矛盾した存在に対する強烈な皮肉とも受け取れます。そしてまた殺人さえも、法の下では、ゴミ投棄よりも低い罪になり得るという、人の創りだした法そのものの危うさへの皮肉とも。

18 冷縁月(早透 光さん)
「振れた」という誤字と「目の奥が見つめる」などの表現が気になりました。また、冷縁月という題は良いのですが、最後の月の描写で「妖しく紅く」という表現が2度繰り返され強調されていること(強調する必要はないと思いますが)とも相俟って、主人公の揺れる心情(ほんのりと紅く熱く妖しい)と「輝きを増す冷たい縁取りの月」というイメージが結びつきませんでした。「右と左の心」も言いたいことは分かりますが、比喩というよりも説明不足の感が否めません。その他は楽しく読ませて頂きました。

19 ガルボ・ナッス(アナトー・シキソさん)
笑いのツボが違うのか冷めた目で読んでしまいました。不条理劇かというとそうでもないし。「ガルボ・ナッスが生きていた」というオチも必要あるのかどうか。ただタイミング良く挿入される台詞のリズムだけが、読み心地の良さを与えてくれました。

20 敗北家族(越冬こあらさん)
いいですね。爆笑です。ジャンプ、ひねり、着地と見事にきまりました。パーフェクトです。

21 本物志向(日向さちさん)
止まるために強い意志が必要な膝歩き、造花でカモフラージュされたゴミ箱、アップルティーを飲み物と確信できないこと、犬の鳴き声の特異性、ささくれた箪笥、禁断か金談かという言葉、これらが語られる状況が分かりませんでした。知覚の乱れなど、精神のバランスのくずれた状況を表しているのでしょうか。緊張感のみが伝わりました。題の意味も分かりませんでした。

22 そらのいろ(隠葉くぬぎさん)
気持ちも伝わるし、文章も良いのですが、何か足りません。この手の作品ではやはり会話が重要かな。粋な、あるいは意表を突く言葉が欲しいですね。

23 そしてカッパ居なくナッパ(影山影司さん)
お辞儀をしたときに皿の水が零れて一巻の終わりということですね。一人でも人が少なくなる方がいいということでしょうが。結末がありきたりでどうもうまくないです。もう少しあっと驚く展開が欲しいです。

24 変われない春(空人さん)
10年経っても変われない自分に涙する。しかし人は10年くらいでは変われないと私は思っています。いや、よほどのことがない限り基本的な部分では何十年経っても変わらないかもしれません。友達が変わったように見えてもそれは職業や立場や外見など上辺だけのことでしかないでしょう。それはともかくとして、変われないという単純にそのことだけで泣けるのでしょうか? 何か切っ掛けがあるに違いないのですが、それを読み取ることはできませんでした。

25 ラスト(るるるぶ☆どっぐちゃんさん)
あおい怪獣の話、いい話ですね。その、あおい怪獣の話をしているのがあおい怪獣の中であったという、一種のメタ小説のようなものですね。良くも悪くも味付けは強烈で。

26 春風とスヌーピー(伊勢 湊さん)
見た目が同じ、機能も同じなら私の身体もマショマロでできていても分からないだろう、物質の本質は記号である、というようなややこしい話ではなく、シンプルに楽しめる不条理小説なのでしょう。不条理には日常が似合いますね。

ということで投票:「敗北家族」に一票。次点は「めなし」で。
投票者: このバトルへの参加作者

感想:
越冬さんはやはり最強でした。
これからも最強で居て下さいね。

一ファンより
投票者: このバトルへの参加作者

■Entry10
殺人者の夢
相川拓也さん

感想:
今回、最終(個人)審査フィルターに通して、以下の作品が残りました。

7.相関     ながしろばんりさん
9.手      鳥野新さん
10.殺人者の夢  相川拓也さん
11.別れの曲   鬱宮時間さん
14.哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー  たかぼさん
16.めなし    ごんぱちさん
17.『母子』   橘内潤さん
20.敗北家族   越冬こあらさん
25.ラスト    るるるぶ☆どっぐちゃんさん

多っ! 何が最終フィルターだ。
厳密に言うと、他にも色々気になった作品はあるのですが、読み返して面白さが色褪せなかったのは、上の作者さんの作品でした。
ですので、そこから選ばせていただきまして、最もストーリー的に好みだった、
10.殺人者の夢 相川拓也さん
に一票。
死という重いテーマを扱いながら、その重さに潰されることのないバランスのよい文章。淡々と抑えた口調で語る死刑囚の、諦めつつも恐怖する心が、リアルに伝わってきました。死を客観的に理解している、しようとしている方なのだと思いました。
ただ、「自分が死ぬために三人殺した」というのは、安易なとってつけな気がしましたが、後の科白に続くための取っ掛かり的な感じもするので、そこは目をつぶるということで……。

次点は、思わず紅茶をふきそうになった、
20.敗北家族 越冬こあらさん
です。
投票者: その他のQBOOKS参加作者

■Entry17
『母子』
橘内 潤さん

感想:
暴力的で破壊的な話で救いはない。でも深く考えさせられる。(あるいは票には結びつきにくい作品なのかもしれないが)世界のあり方とは実際そんなものなのかもしれない。妙に詩的で一見難しそうなサーフィスな作品が多い中、これはだいぶ骨太で心を惹きました。救いはないけど。
投票者: このバトルへの参加作者

■Entry23
そしてカッパ居なくナッパ
影山影司さん

感想:
ぴかぷー。
01  タコ入道のお気に入り    榎生東
 この饒舌さが生々しい。若い諸君はえー? と思われるかもしれんが、小生心中、このシリーズ、楽しみなのである。そ、リアリティ。

03  下手っぴ寺山修司ふう    ゆふな さき
 寺山? 冗談ポイよ。寺山はもっと謙虚だ。
 ものを見るときの視点が高いゆえに、己の未熟が見え見えである。もっと自省を。

09  手    鳥野 新
 アイデアとしては秀逸。勝負すべきは、この、先。

10  殺人者の夢    相川拓也
 掴みがまだ広い。もっとテーマを絞っていい。殺人者が殺した人々の、具体的な一人でいい。

14  哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー    たかぼ
 ああ、アートやな。展開の美、である。
 自分の仕事を客観化して書けるものの筆である。身体を通して気持ちがいい。

20  敗北家族    越冬こあら
 この前の「タコを逃がす」も好きだったけれども、今回も小道具が好きだなぁ。この辺は天性のセンスなんだよなぁ。ディテールの面白さはやっぱりこあらさんである。

23  そしてカッパ居なくナッパ    影山影司
 アイデア先行は否めないが、丁寧に仕事をしているのがわかる。ガチガチじゃ無くて、この気力の充実している感じがいいぢゃないの。言葉の選び方も丁寧だし、読んでて気持ちがいい。

25  ラスト    るるるぶ☆どっぐちゃん
 どっくちゃんのセックス描写は面白いな。そこに熱がこもるんじゃなくて、行為自体の因果関係でセックスになってる。前に書いてたトイレでやっちゃうやつもそうだけど、いわゆる「行為」が変哲の無いパーツになっているあたり、なんてえかな、セックス自体が他人事なんだな。

26  春風とスヌーピー    伊勢 湊
 ガーッ!(゚д゚)

 さて(笑)投票ですが、こあらさん、どっくちゃん、影山ちゅとこで、今回の丁寧さには感心したので影山ですな。甘い? 否。Qの古参が平均点をたたき出してるところで、気の充溢した作品を見せてもらって、これからもがんばれや、ってことで。(M)
投票者: このバトルへの参加作者

■Entry25
ラスト
るるるぶ☆どっぐちゃんさん

感想:
 全体として小説として成り立っているものが数作しかない。
 心情の変化を独白で「説明」するものが多く、これは筆力以前のスタンスの問題である気がするが、ともあれそれでは小説ではないと僕は思う。日記だ。
 以下、感想を書けそうな作品ごとに。

01:タコ入道のお気に入り:榎生 東 氏
 文章はつたないけれども、「説明」しては陳腐な内容をシチュエーションで表現しようとしている。そのためにとった手法が「会話文」だったというのが失敗の原因ではないかと思う。仕草などの描写でもっと奥深さが出たのではないか。

14:哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー:たかぼ
 ここまで読んだ限りでは、これに投票しようと思っていた。若干説明っぽかったり、必要のない描写もあるけれども、大きな水たまりを見たことにより得た発想(であると思われる)をうまくもてあそんでいる。
 普段ないところにできた、大きな水たまり。そこに現れた、いるはずのない魚。水たまりというほの暗い中には、人の心の隙間をのぞくようなうしろめたい感覚が潜んでいる――そんなことを考えてしまった。それが「あり得ない」ものとなって現れる辺りが面白い。
 この水たまりであって水たまりではないものが、ブルーの空と「私」を見事に断絶している。コントラストの美しさを買う。
 けれども、水たまりはあくまでも濁っているからこその水たまりではないのか。水たまりの「色」まで美化することはないのではないか、と思った。

16:めなし:ごんぱち 氏
 上手。過不足なく着地点もしっかり見えている。が、この作者はもはやそれだけでは票をとっても(投じても)意味がないと思う。

20:敗北家族:越冬こあら 氏
 パッとしない内容を地の文のおもしろさでカバーしている。ただもともとの素材がパッとしないので、それ以上にはなっていない。

25:ラスト:るるるぶ☆どっぐちゃん 氏
 どっぐちゃん節が、破綻せずにうまく機能した作品だと思う。最後の方の、
「ここがあおい怪獣の中だからか。」
 がなければ一票を投じなかった。というか気づかなかった。世界の外壁に存在する孤独な怪獣と、怪獣の胃袋の中でぬくぬくと生活を送る(まるでモラトリアムのようなぬるま湯)登場人物が見事なコントラストになっているように思えた。作中劇もまた世界の階層を意識させる上ではグッド。
 最後の「偽の宝石のようなその輝き」がいったい何色に見えるかによって、その人の読み手としてのスタンスがわかるのではないか(「部屋中に散らばる薬」というのも暗示的だ)。ちなみに僕は白。あくまでもニュートラルとして読めていたのだろう。
 作者が自覚しているのかどうかはわからないが、挑戦的な文章であり、それを買いたい。
(筆:三月)
投票者: その他のQBOOKS参加作者