「四次元ポケットあればいいよな……。」大掃除の前の決まり文句。私は、それよりサクサクと雑誌をまとめてほしいんだけども。たしか、先日の真夜中も、忘年会が連日続いてて、私が流石に怒ったら「どこでもドアが無いんだから……。……ぶつぶつ……zzz。」と眠っていたっけか。……彼の目には私はきっとジャ○アンに、子供たちはさしずめス○夫に見えるだろう。でも、点(一次元)、線(二次元)、箱(三次元)としか向き合ってないから、彼はそんなことを言ってすやすや寝息をたてて、私のことなど上の空、どこ吹く風。でも、私たちは四次元の世界を生きている。「自分の居る一つ下の階層までの世界しか見えないんだってさ」「あとは仮想の世界なんだってさ」「セカンドライフ、やってみたいよな……」「そうだね、パパ、オンラインゲーム面白いもんね〜」授業で習った余興話の過去と、目の前のやり取りに私は苛立ってしまう。こんなにも苛立ってしまうのは、年の瀬を迎えて私を忙しくさせている「時間」が刻むこの四次元の世界で生きているから。掃除がひと段落して、洋服を片付けていたら夫が急に声をあげた。「あ、スラックス!」「ほつれは、直してあるよ。」「あんがと。」「パパ、お小遣い!」「お前はこれ。」「ええ〜!」娘のほっぺを見ながら、夫がプクリと膨らませ、ぽいとしたのは、昔なつかしい「紙風船」で、ふわりと娘の手に落ちる。「パパからのプレゼントよ」と娘をたしなめ、訊ねてみる。「どうしたのそれ?」「あぁ、営業先の近くに駄菓子屋があってな、つい。」話によれば年末の、忙しくしている街並みに、忘れられているように駄菓子屋さんがあって、おじいさんと近所の子がやりとりしていたらしい。懐かしさがどっときて思わず買ってしまったとか。すっかり買ったことも忘れてしまっていたくせに、スラックスの他のポケットから出てきた。でもあなた、「紙風船」やるような世代じゃないのでは……?ウルトラセ○ンとかの時代でしょうが。そう苦笑すると、「まぁ、そうなんだけど」と口を尖らせて、空気を入れてもう一つ膨らます。娘はだんだんと気に入って騒いでるのに、私の「この人は父親って自覚がないのかしら」とか、今年こそ「夫って自覚をもってもらわなければ!」とかいう意気込みは紙風船に乗ってどこ吹く風。スラックスのポケットはどうやら彼の四次元ポケットらしい。ドラ○もんはまだしばらくできないらしい。
※作者付記: 今回も1000字ぴったり、いきました。101回目なんで、「プロポーズ」と悩みましたけど。
んでしょう、ね、、から、、ですよね――のぼる「ちょっと電波の具合が悪いよ。もう少しおっきい声でねぇか」 アレ? んで、して、遠いから、たかけなおしま――のぼる「悪い。今、ちょっと聞こえた」 あっ、もしもし。あと、こちらから、おでん――ハイ、そこでトミージャクソン登場! のぼるくんをボコボコにして携帯電話をレンジでチンして帰っていきました〜。 外はまだ暗い。年賀状を整理していたら、昔の日記が出てきた。「六月十二日 今日はバイト先でいじめにあった。かなり凹んでいる」我ながら子供だったと苦笑いする。「バイトの○○さんがムカつく」とか書いてある。わざわざ日記につけなくてもいいのに。「九月三十日 自分は何者なのか。何で産まれてきたのだろう。産まれてこなければ」オイオイ、それは言いすぎだろう。かなり思い悩んでいる様子だ。助け舟を出してあげたいけど、この日に産まれた人には縁起が悪いので、この日のページはストラックアウトしよう。ハイここでトミージャクソン登場! 日記にへたくそな似顔絵をかいて、ジャーの米にたばこの吸い殻を入れて帰っていきました〜。 携帯電話のバイブが鳴る。あいつからのメールだ。「あけましておめでとう」だって。気が利かねぇな。こっちは独り身だってんだ。彼女とイチャイチャしてんだろ、いい気なもんだぜ、全く。ハイ、そこでトミージャクソン登場! 携帯電話にラー油をかけてメンマで美味しくいただいて帰りました〜。日記の続きを読む。あっ、と声が漏れる。かなり変なことを書いてあるので、ここは割愛。 次のページをめくると、素晴らしい一言が書いてあった。どんな一言かと言えば、言えなくもないが、人に言うのはもったいないし、敢えて自分の中に留めておきたい、たった一言。それは明らかにお父さんの字で力強く大きく大胆に。またもや携帯のバイブが鳴る。「もしもし、お父さん? うん、うん、うん。元気でやってるよ。ありがとう。長生きしてね。うん、ちゃんと食べてる」その時トミージャクソン登場! スザンナオーランプの携帯電話にセンスのない俳句を詠んで帰っていきました〜。ついでにトミーの兄貴、マイケル登場!スザンナオーランプの日記にしょんべんかけて、しょうもない落語を見せて帰っていきました〜。はい、終了〜。出演 トミージャクソンスザンナオーランプのぼるくんマイケルジャクソン (友情出演)
男はiPODでボブ・マーリィとスライ・アンド・ザ・ファミリーストーンを聴きながら猫と海岸線を歩き続ける。海。どこまでも海。どこまでもモノクロームの海。R255。G255。B255。188分割の海。ずるずると続く海岸線を歩き続ける。ノイズ。ノイズを聴きながら、どこまでも続くだらだらとした海岸線、歩き続ける。 だらだらとどこまでも続く美術館大回廊。女はいつの間にか手にしていたトランプを撒き散らしながら歩く。ロイヤルストレート。ロイヤルストレートフラッシュ。ファイブカード。ツーペア。ツーペア。ワンペア。ツーペア。ツーペア。スリーカード。 フラッシュ。 ダイヤのフラッシュ。 思わず眩しくて、188並んだ目を閉じる。 眩しくて眩しくて眩しくて、懐かしくて眩しくて、目を閉じる。 44.1Khz。 96Khz。 192Khz。 眩しくて、何も聴き取れなくて、目を閉じる。(やっぱり24bit/192Khzしか駄目だよ。CDの音質なんて糞だよ。Ipodで十分なんて言っているやつは駄目だよ)(やっぱり1ビットレコーディングですね。この素晴らしさをCDの音質にダウンサンプリングしなければいけないのは本当にもったいない)(やっぱりアナログレコードだね。キーブ・ザ・ディギン。いつだって掘り続けているよ!) 眩しくて目を閉じる。 美術館に展示されているシュレディンガーの猫が、地球儀を回していた。 ドードーが地球儀を回している。 バルサミモがその枝を伸ばし、地球儀を回している。 増えすぎたイナゴが、地球儀を回している。 ひまわり畑。小麦もとうもろこしも食べつくされて残されたひまわり畑。 百八十人のゴッホ。 三百五十六人の自分。 歴史書。七万冊の歴史書。本棚を肩に抱えて歩く。 歴史年表。ファッションショー舞台。歴史年表を貼り付けられたモデルたちが歩く。 シンセサイザー。 どこまでも続く美術館大回廊。 美術館で落ち合ったゴッホと共に近場のクラブへと足を運ぶ。 キャンバス。イーゼル。油絵の具。打ち捨てられたパレット。打ち捨てられた絵筆。打ち捨てられた電子タブレット。打ち捨てられた液晶タブレット。打ち捨てられたひまわり。「クスリはいるかい?」 隣に座った温和な紳士の言葉。「クスリはやらないんだ」「なんでだい」「なんでかな」「クスリは悲しいだけ、とか言うんじゃあないだろうな」「さあね」 アルコール。アルコールに燃え上がる六錠のクスリ。六パケットのクスリ。六本の腕。キリギリス。冬の太陽に燃え上がる、バイオリンケースを抱えたキリギリス。
「キル!」 地獄の四丁目のバーのカウンターで、悪魔のヘッテルギウス氏は、ため息混じりに注文をする。「どうぞ」 バーテンのニスシチは、赤味がかった黄色いカクテルを出す。「元気がありませんね、お客さん」「あー、魂の回収量が少ないってケツ叩かれてな」 ヘッテルギウス氏は、カクテルを一口飲む。「年末強化月間でしたね」「死ぬ人数なんて大して変わりゃしないんだから、魂はそう集まるもんじゃないんだよ。それを、ナベルスの野郎」「大変ですね」 グラスを拭きながら話を聞いていたニスシチは、ふと口を開いた。「――あ、お客さん」「なんだ?」「それって、別に丸ごと一個、魂が手に入らなきゃいけない訳でもないんですよね?」 召喚儀式を行っていた人間の前に、ヘッテルギウス氏は現れた。「――お金がお望みですね、葉臼藤吉さん」「な、なんで分かった!」 儀礼用のフードで顔は見えないが、震える声は男のものだった。「悪魔は欲望に敏感なものです」「そうか、だったら、その、よこせ! いっぱいだ!」「まあ慌てずに」 ヘッテルギウス氏は穏やかに笑って見せる。「悪魔は神と違って、タダで何かをくれたりはしません。逆に言えば、対価さえあれば何だって叶えて差し上げられますよ」「対価……でも、俺は何もやれるものなんて」「そうですね、寿命はいかがでしょう。「じゅっ! ふ、ふざけるな!」 怒鳴る勢いで、フードが跳ね上がる。高校生か大学生か、まだ若い男だった。「全部とは言っていませんよ。そうですね、等価交換といきましょう」「どういう事だ?」「あなたの余命と、今後の収入を交換するんですよ。余命が半分になればその期間の収入が二倍、四分の一になれば収入は四倍」「ちょっと待て、その計算だったら結局貰える金額は同じで寿命が縮むだけじゃないか! 騙そうたってそうはいかないぞ」「そうですか? 貧しい苦役を長く科せられるのと、短いけれど豊かで幸せな生活を噛みしめるのと、本当に同じだとお思いですか?」 ヘッテルギウス氏は、ほんの少しだけ悪魔の気配を強めた。「それは……んーと、ちょっと待て、考える、しっかり、考える」「――えー、こちらが、世界一の長寿の葉臼藤吉さんです」 レポーターは、葉臼藤吉にマイクを向ける。「葉臼さんは、おいくつになられるんですか?」「一五〇〇歳だ、他に話すことはない」 藤吉はぶすっとした顔で応え、ダンボールハウスに戻って行った。
街灯のない細い路地を雨が漆黒に染めている。朽ちかけた板塀の先が右に消えてゆくその角の辺りで、きい、と小さく湿った音がした。古びた木枠に磨りガラスの嵌まった薄い扉が開いて、背の高い痩せた女が現れた。そこは廃業した個人医院で、女は白衣の上に色の濃い上掛けらしいものを羽織って傘も差さずに歩いてくる。俯いた顔は暗く表情は判らない。私は喉のあたりが重く痛むのを感じた。 開業医と若い愛人の二人を、その医師の元愛人だった看護婦が殺害して自殺したという数年前の事件を私は思い出した。ちょうど今夜のように、重い雨の降る秋の宵のことであった。私は舗道を踏む靴の感触が雨に呑まれて薄く消えるように感じ、戦慄した。 歩み寄る女の細長い体は白く浮きあがり、俯く顔は反対に闇に沈んでいる。事件の夜を普段と変わらず勤め上げた看護婦は、退勤の直前に、新しく医師の寵を得た若い看護婦を診療台に括りつけ、メスで何度も突いた。重い雨はやまず薄いガラス窓を打ち、雲に隠れて下りた夜の帳が寂れた医院を黒く塗り込めていたという。警察が来た時は看護婦の姿はなかった。彼女は自宅の玄関で咽喉を突いていた。血まみれの白衣に長い黒髪がまとわりつき、ぐっしょりと濡れそぼっていた。 かりそめの恋を彷徨う男女の行為は、影から影へと飛び移る子どもの戯れのように儚い。だからこそ残酷なものなのであろう。そんなことを漠然と考えながら、私は急に不安を覚える。日がすっと沈んで、無邪気な跳躍が闇に呑まれていくような不安。女と私の佇むあたりの地面がひときわ黒く濡れている。靴は依然として舗道の硬さを伝えない。だらりと下げた女の右腕の先に雨粒が伝い、闇のなかで小さく光った。 あの夜、ほど近い路上で看護婦は往診帰りの医師を待った。涙に返り血を洗わせ、頬をまだらに伝わせた異形で女は抱擁を求める。男は女を振り払った。男は影を重ねて刹那の喜びを求めるだけの虚ろな影であった。女は呪詛のように愛の言葉を叫びながら、その喉へメスを突き立てた。 雨の音に紛れて、低い声が私の耳に届いた。眼前に在る闇の、唇の形に空いた穴から聞こえる呪詛を一字一句覚えていることに私は気づいた。喉が強く痛みだし、私は鞄を取り落としていた。往診鞄は音もなく雨の路上に消えた。私はようやく思い出した。虚無を孕んだ黝い眼窩が私を睨みつけ、ぎちぎちと糸に吊られるように、右手のメスがまた振り上げられた。
どうかご安心下さい。やがて明るい未来がやって参ります。 作り物ではございますが、鳥たちは毎朝歌い、踊り、天空には太陽が輝き、時に曇り、そして雨、または豪雪、台風、雷、地震、竜巻その他天災も自然からの適度な警告として必要なだけは発生するものの、生活の根幹を脅かすものではなく、むしろメリハリのある暮らしを保障するものとなるでしょう。寒帯と熱帯を除いた地域には、暦通りの四季が訪れ、それぞれに伝わる正しく懐かしい風習が折々に繰り返され、穏やかな時間が経過してゆくことでしょう。 人々は、周囲の動植物を含めて、慈愛を分かち合い、必要なものは育て、必要以上のものは獲らず、互いに感謝の気持ちを持って摂取し、自然の恵みを自然に帰す、完全リサイクルな生活スタイルが確立され、展開されることでしょう。 家庭は秩序を取り戻し、弱者は強者の庇護を受け、強者は弱者の敬愛を浴び、互いに尊重し合い、協調し合い、その豊かな心意気を周囲に存分に分かち与え、優しさと喜びが絶えることの無い癒しの空間としての存在を取り戻すことでしょう。 全ての戦争は終結を迎え、テロ行為は撲滅され、殺し合い、殴り合い、憎しみ合いは一掃され、異なる思想、政治、宗教、経済基盤は、互いの違いを確認し合い、協調、共存共栄の理想世界を形成することでしょう。情報は完全に共有され、報道は正しいルールを保った伝達手段として、世界中の人々の様々な幸福を伝え合うことでしょう。 芸術は、絵画、音楽、文芸をはじめとして大いに栄え、歴史に名を馳せた大家達はもちろんのこと、大道芸人、千文字小説投稿作家に至るまで、歪み、偏りの無い正しい評価を受け、正当な賞賛の下、それなりの暮らしが保障されるでしょう。人々は、自然の移ろいを愉しむのと同様に街に溢れる芸術を愛しみ、芸術はそんな人々の暮らしに欠くことの出来ない潤いをもたらすことでしょう。 街には笑顔と挨拶が溢れ、日々それなりの忙しさはあるものの、市民は心に余裕を持った生活を楽しむことが出来るでしょう。清潔で、便利で、平和な都市生活が未来永劫繰り返されることでしょう。 ですから、どうぞ安心してお休み下さい。全てのことは終結し、歴史の幕は一旦、下ろされます。しかし、歴史は再び幕を開け、全ては新たに誕生し、成長してゆきます。優しい未来を阻むものはもう、何もございません。 どうか、安心しておやすみ下さい、さようなら。
※作者付記: 千文字小説バトルに関わったスタッフの皆様、投稿されたライバル作者の皆様、投票頂いた読者の皆様、長い間、どうもありがとうございました。